
「小谷村の宝を残し伝えたい」
雪深い小谷村ではかつて、冬季に酒蔵に出稼ぎに行く人が多かった。確かな技術や勤勉さで、各地の蔵元の酒造りを支えた「小谷杜氏(とうじ)」。彼らはいま、姿を消しつつある。
村や近隣に観光業など他の働く場が増えたこと、酒造りの技術が進歩し、蔵元で通年雇用が進んだことなどが主な要因という。
多くの杜氏や蔵人を生んだ同村だが、今や「小谷杜氏」を知らない村民も多くなった。当事者は高齢になり、歴史をじかに語れる人は数えるほどになった。
「今こそ小谷杜氏に会って、生きざまと人間味に触れてほしい」。村集落支援員の熱い思いが元になり、杜氏経験者5人のトークショーを交えた日本酒の催し「おたり酒の道まつり」が20日、同村役場で開かれる。
語り継ぎたい5人に話聞く
「今しかない。語り継げなくなる時が見えている。消えてしまうものにしたくない」。小谷村集落支援員の松澤彩子さん(45)、細野希美さん(43)は、声を合わせた。
二人とも村外の出身。「歴史や伝説の中の人」だと思っていた「小谷杜氏」が、今も村内で暮らしている―。そんな情報を得て興味がそそられた。彼らは80代以上の高齢だ。「小谷杜氏」最後とされる世代で、直接話を聞ける杜氏経験者5人を昨年から訪ね、インタビューを重ねた。
話を聞いたのは、鷲澤捨男さん(89)、小林守さん(89)、山田和男さん(88)、丸山陸栄さん(88)、小林幸由さん(81)。全員、中信地方の酒蔵で杜氏を務め、引退している。
お茶をすすり、あぜに腰を下ろして、時には酒を酌み交わしながら、酒造りへの情熱や苦労、家族への思いといった、熱量に満ちた職人の言葉を引き出した。彼らが酒造りをしていた蔵元も取材し、継承されている技術や心意気にも触れた。
取材を基に、昨年6月から今年3月にかけ、杜氏経験者を囲んで話を聞く催しを4回、村内で開いた。企画した二人が伝えたかったのは、彼らの人となりや暮らしぶり。生活の様子、村に残された家族の苦労などにも迫った。村内外から参加者が集まり、ゆかりの蔵の酒も試飲して楽しんだ。
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20日正午から、村役場で開かれる催し「おたり酒の道まつり」は、村民有志や村地域づくり振興課でつくる実行委員会が主催。小谷杜氏と縁のある中信地方の7蔵の酒を楽しみ、5人の杜氏経験者のトークショー、利き酒大会、仕込み水の試飲、「酒造りの唄」の合唱などを行う。
昨年度開いた5人それぞれを囲んで話を聞く催しや、これまでの取材内容をまとめた書籍「小谷杜氏ものがたり」(千円)を刊行し、「まつり」で初めて販売する。各人の内面にも触れた、読み応えある内容だ。
人生に魅了され改めて光当てる
「魂の記録を託された」と語る細野さん。「人の和を大切に仕事をした人たち。いい空気感を醸せる人だからこそ杜氏を任されたのでは。そんな感覚的なものを書籍などで残したい」。松澤さんは「新婚ほやほやで夫は酒蔵へ。夫がいない中での出産や子育ての苦労など、家族の物語も伝えられたら」と話す。
小林幸由さんはこれら一連の取り組みに、「『小谷杜氏』という言葉が忘れ去られる時代に、改めて盛り上げ、日本酒を広めてくれることはありがたい」と感謝する。
元杜氏たちの取材を通じて二人は、彼らの人生や醸した味に、魅了されたという。「小谷村の宝を残したい、伝えたい」。その一心で小谷杜氏に光を当てる。
「おたり酒の道まつり」の参加費は、前売り(18日午後5時まで)3千円、当日3500円。酒を飲まない人は千円。詳細はウェブサイトに。実行委員会事務局は村地域づくり振興課TEL0261・82・2589(平日のみ)