
自閉スペクトラム特性のある方が、トラウマを抱えて長く苦しんでいる姿を、私は診療の中で何度も見てきました。トラウマというと命の危険に及ぶような「大事件」を思い浮かべる方も多いかもしれません。でも実際には、ご本人が「圧倒され、自分ではどうすることもできない」と感じた体験であれば、一般的にはささいに見える出来事でも、心の大きな傷となることがあります。
自閉スペクトラム特性のある方は、記憶が鮮明に残りやすく、気持ちの切り替えが難しいため、つらい体験を何度も反すうしてしまいがちです。感覚過敏や繊細さも重なり、同じ出来事でも受けるダメージが大きくなります。また、コミュニケーションの苦手さから、理不尽だと感じたことをうまく伝えられず、一人で抱え込んでしまうこともあります。学校などの集団場面では、誤解や偏見、「そんなこと気にしなくていい」と感じ方を軽く扱われる経験も少なくありません。こうした心の傷は、10年、20年と長く尾を引くこともあります。
一方で、同じ出来事でも、周囲がしっかり受け止めケアできれば、トラウマになりにくいことも臨床の中で感じています。普段から無理の少ない環境を整えること、困ったときに相談できる関係をつくること、本人の自己決定を尊重し、相談する力を育てること。こうした積み重ねが予防につながります。
また、本人にとってショックなことがあったときに、大人が「気軽に謝る」ことも大切だと私は思っています。大人側に言い分があったとしても、「悲しい思いをさせてしまってごめんね」「配慮が足りなかったね」と伝えることは、「あなたの気持ちを大切に思っているよ」というメッセージになります。反対に、訴えを軽く扱われると分かってもらえないことがトラウマを深くすることもあります。
「そんなことで」と決めつけず、「この子にとってどんな体験だったのだろう」と想像してみること―その姿勢が、子どもの心を守ることにつながります。