
松川村の安曇野ちひろ美術館で9月6日まで、大分県を拠点に活動する2人組の絵本作家・美術家「ザ・キャビンカンパニー」の絵本2作品の原画38点を並べた展覧会が開かれている。日本絵本賞大賞を受賞するなど独創性に満ちた若手作家の原画を、ちひろ美術館が新たに収蔵しての開催。初日(6月12日)のアーティストトークで語った作品づくりへの思いを交えて紹介する。
同県出身の阿部健太朗さん(37)、吉岡紗希さん(38)夫婦による作家ユニット。大分大の同級生で、由布市の廃校をアトリエにして、二人三脚で絵本や立体造形、アニメーションなど多彩な作品を発表している。
本展では、「がっこうにまにあわない」(あかね書房、2022年)、「ゆうやけにとけていく」(小学館、23年)の原画に加え、制作の裏側を伝える絵コンテやラフ画、画材なども展示。ベニヤ板にアクリル絵の具などの画材で描く個性的なスタイルで、板の質感までも見て取れるのが原画鑑賞の醍醐味の一つだ。
「がっこう―」は、遅刻しそうな男の子が、通学路で遭遇する幾多のトラブルに負けずに必死に走り、到着までの13分間を1分刻みのシーンで描いた、疾走感、ドキドキ感に満ちた作。ワニや、人の背丈よりも大きな犬が登場するなど、自身の登下校時の思い出や心理も重ねた非現実の描写で、主人公の焦りの心情を伝える。
「娘が3歳ぐらいの時に時間の概念を教えた。時間にとらわれる感覚を教えてしまった罪悪感も覚えたが、芸術や自然物を見た時は、ふと時間を忘れる瞬間がある」と、着想のきっかけを語った。
また、二人が尊敬する夏目漱石や太宰治らの作品名やモチーフなどが絵の中にさりげなく隠され、何度見ても新鮮な発見がある。
「ゆうやけ―」は、太陽が沈んでいく時間帯に、本を読む、小石を蹴る、お風呂に入るといったいろいろな場所や季節の中の子どもの日常や景色を描いた。
畳に寝転がった子がめくる本のページには詩人・吉野弘の詩、金子みすゞの詩の言葉が入った看板が登場する場面も。「詩には夕焼けをテーマにしたものが多い印象で、詩的な本を作ってみたかった」と吉岡さん。世界的名画へのオマージュも盛り込まれている。
阿部さんの友人が他界した悲しみから、「絶望の中にいる人、朝が見えない人にも寄り添える絵本にしたかった。何も起こらない絵本だが、一瞬一瞬を美しく描き、1日を過ごしている状況を肯定できたら」。
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二人は、絵本画家・いわさきちひろの子ども表現を参考に、「がっこう―」以降の作品の人物造形を大きく転換。岡谷市出身の童画家・武井武雄らの影響も受け、長野県にゆかりのある仕事や創作も多い。「ゆうやけ―」で描かれた雪山は、信州で見たイメージという。
「原画を前にすると、作家と話をしているような気持ちになれる。僕らの作品が美術館に残り、未来の誰かと話をすると思うとうれしい」と阿部さん。デジタル仕上げも珍しくない時代に、手で描き続けるこだわりにも触れられる機会となりそうだ。
【安曇野ちひろ美術館 夏の展覧会】 9月6日まで。トットちゃん広場10周年記念展「みんな、いっしょだよ。」、「ようこそ!ザ・キャビンカンパニー 新収蔵作品展―がっこうにまにあわない・ゆうやけにとけていく―」、ちひろ美術館コレクション「星の下の物語」の三つ。午前10時(7月18日~8月31日は9時)~午後5時。第2・4水曜休館(8月は無休)。入館料1200円、18歳以下と高校生以下は無料。同館TEL0261・62・0772