
松本市の塙東子(はなわとうこ)さん(27、岡田松岡)は、市立博物館(大手3)の数少ない〝理系〟学芸員の一人。主に四賀化石館(七嵐)でイベントの企画や展示の解説などをしている。小学生の頃から大の化石好きで、館内に展示されているシガマッコウクジラの全身骨格化石の模型を指さし、「全身が出てくるって、本当に珍しいことなんです!」と目を輝かせる。
9月から古里のジオパークへ
シガマッコウクジラは、約1300万年前に生きていた世界最古のマッコウクジラ。1986(昭和61)年、地元の小学生が川で釣りをしていた時に、歯の化石を見つけたのをきっかけに発掘調査が行われ、2006年に新属新種として論文に発表された。
「ここの化石は『ホロタイプ(正基準標本)』と呼ばれる学名の基準となる化石で、世界に一つだけの最も重要な標本。このすごさと感動を、一人でも多くの人に伝えたい」と塙さん。
館内にはほかに、四賀地区や隣接する安曇野市豊科などで発掘された魚やウニ、貝、植物などの化石がずらり。入館料を無料にしたこともあり、昨年度の入館者は前年度から3613人増えて1万1424人を記録した。
「化石だけでなく、生き物や地球の成り立ち、地元の歴史など、何かに興味が向くきっかけを与えられる場所でありたい。2階に並ぶ動物の剥製もすごいですよ」
また学芸員するなら松本で
北海道出身。小学4年生の時、化石好きの担任に連れられ、父親と3人で発掘に出かけた。その時の楽しさ、貝の化石を手にした時の不思議な感覚が、その後の進路を決めた。
松本市にある信州大理学部の地球学コースに進学。秋田県での調査で下顎が4㍍を超える大きな鯨の化石を発掘し、福井県で恐竜の化石発掘にも参加した。
学芸員の求人は少ない。塙さんも北海道の銀行から内定を得ていたが、大学院を卒業する直前の1月、同市の学芸員の枠が一つ空き、迷わず手を挙げて今がある。
そんな塙さんに転機が訪れた。北海道三笠市の「三笠ジオパーク」から声がかかり、9年間過ごした松本を離れ、9月から活動の場を移す。地層や化石など、地球と生命の1億年の歴史を目の当たりにできるジオパークで、知見を広めたい考えだ。
「自然豊かな松本。もっと自然科学分野の学芸員が増えてほしい」と願う塙さん。「将来、また博物館の学芸員をするなら『松本で』と思っている。これからもさまざまなことを学んでいきたい」と力を込める。