深みある本来の音を堪能 松本の郷津好正さん自作の真空管アンプでSPレコード鑑賞会

松本市城東2の「お堀と青木カフェ」(旧青木医院)で、希少価値が高いSPレコードのコンサートが開かれ、店主の青木京子さんら音楽ファンが、深みのある音を堪能している。
主催者はレコードの持ち主で、近くで「城東治療院」を営む鍼灸師の郷津好正さん(77)。「SPの魅力を知ってほしい」と、一昨年10月から今年6月までに5回開催。毎回コレクションから選んだクラシックやジャズなど10曲をかける。
機械いじりも趣味で、「SP本来の音を」と、コンサートでは真空管を使った自作のアンプを使う。レコードを傷めないよう、プレーヤーの針の扱いにも細心の注意を払う。
治療用の鍼を持てば患者の凝りや痛みを和らげるが、器用な手先で別の悩みも解決している。

趣味も本業も〝はり〟巧みに

「クラシックの次はジャズをお聴かせします」。6月22日、「お堀と青木カフェ」で開かれた「SPレコードを聴く会」。主催者の郷津好正さんはそう言いながら、レコードの上に慎重に針を落とした。摩耗から守るため、針はごく軽量だ。
デューク・エリントンの「A列車で行こう」が流れた。この日の参加者8人は、コーヒーを片手に曲に合わせて体や指先を揺らした。
「SPはモノラル録音ですが、低音がいい。真空管アンプの音には、温かみと柔らかさがあります」。郷津さんの解説に全員がうなずいた。郷津さんは「SPは貴重な文化財」と保存も訴え、1時間半のコンサートは終了した。
SPは19世紀末、蓄音機用レコードとして開発された。1分間に78回転。天然素材を主原料に製造されたため脆く、針を落とすたびに音質が劣化した。
20世紀半ば、LPレコードの登場とともに姿を消した。現在、保存状態のいい物は入手困難という。
郷津さんがSPに出合ったのは中学1年の時。祖母からピアノ演奏曲を収録した1枚をもらった。クラシックが好きだったこともあり、SPの深みのある音に魅了された。
機械いじりにも没頭した。東京・秋葉原の電気街に出かけて部品を買い求め、ラジオやアンプ、スピーカーなど音響機器やカメラを自作した。
今日まで集めたSPは、クラシックやジャズ、ポップスなどざっと300枚。どれも大切に扱ってきたので保存状態はいい。自作の音響機械はアンプだけで50台を超える。
「SPが世の中から忘れ去られるのは残念。もう一度光を当てたい」。そう望んだ郷津さんは「青木カフェでレコードコンサートを開けないか」と考えた。
ジャズなどの演奏会が度々開かれるカフェの客は、音楽ファンが多い。店主の青木京子さんの亡父・安弘さんも音楽好きで、SPを鑑賞していた。郷津さんとも知り合いだった。
青木さんは郷津さんからコンサート開催を提案され、初めてSPを聴いた。その魅力に触れ、「父を思い出しました。ぜひうちでコンサートを」と快諾した。
郷津さんはSPの〝本当の音〟にこだわり、「アナログ時代の産物。アンプも真空管で」と、カフェに自作のアンプなどを持ち込み、コンサートが始まった。
口コミとSNSの告知で、参加者は毎回10人ほど。青木さんは「皆さん、郷津さんとの音楽談義も楽しみなようです」と語る。
郷津さんは、治療院では体の不調を訴える患者への施術に忙しいが、持ち込まれる悩みは他にもある。「郷津先生、このラジオの調子が悪いんです」。そんなときは無償で修理し、大きな家電なら依頼者の家に出かけて行く。
「コンサートも修理も、趣味でやらせてもらっているだけ」と謙虚だが、実は「どちらも楽しくて仕方ない」という。
コンサートの開催は「お堀と青木カフェ」のインスタグラムで告知する。問い合わせはダイレクトメッセージか同店に電話(0263・32・0053、水・木曜と第4、5日曜定休)で。