
松本市の女鳥羽中学校(354人)のピロティで7月23日の昼休み、「女鳥羽中学ロックフェスティバル メトロック」が初めて開かれた。
ドラム担当は、今年校長に着任した春日康志さん(58)。同じく今年赴任した施設管理の布野悠吉さん(42)がギターを奏で、音楽科教員の中谷梨恵さんが歌を担当した。
演目は「みんなで歌える曲を」と、ロックではなくAKB48の「365日の紙飛行機」。昼休みの短い時間ながら多くの生徒や教員が集まって声援を送り、最後は全員で声を合わせ盛り上がった。
春日さんがたたいたドラムは、昨年1月急逝した、前塩尻西小校長の大野征二さんから譲り受けた物。高校時代からの友人という大野さんと、ロックフェスティバルに込めた思いを取材した。
生徒の表現意欲刺激する場所に
40年ほど前、松本県ケ丘高校1年生だった春日康志さんは、1学期でバレーボール部を退部。挫折感を抱きつつ、部活へと急ぐ級友を横目に帰宅の途に就く日々だった。
ある日、同じクラスの大野征二さんがエレキギターを弾いている所に出くわした。触らせてほしいと頼むと大野さんは快く応じた。
それからほどなくして「一緒にバンドをやろう」と誘われた。アルバイトでお金をためて中古のベースを手に入れ、音楽との付き合いが始まった。春日さんは大野さんを「人生の恩人」と感じているという。
進学先は違ったがそれぞれ教師となり、交流が続いた。大野さんが塩尻西小(塩尻市)の校長時代に発案した、2時間目の休み時間に児童らが好きなことを発表する「西小ライブ」に春日さんも数回参加。「来年で結成40年」などと言いながら、小学生の前で演奏した。
2024年の夏休み、ドラムセットを買い替えたという大野さんから「前のセット使わない?」と声をかけられた。気持ちばかりの代金と「冬になったら大好物の干し柿を送ること」を条件に譲り受けた春日さん。当時勤務していた阿南町の小学校の校長室にドラムを運び込み、児童にたたかせたり、校長講話として他の先生と一緒に演奏したりした。年末に柿を送り、お礼のメールを受け取ったが、年明けに大野さんが急逝。最後のやりとりになった。
ことし女鳥羽中学校に転任。形見となったドラムを前任校で使ってもらうのも、自分の家に置くのも違うと悩んだ末、大野さんは「これを使って学校のみんなと音楽で盛り上がりなよ!」と言っていたのだと思い、5月、同校の校長室へと運びこんだ。
赴任後に、布野さんと二人でハードロックをサプライズ演奏したこともあり、まずは楽しんで演奏する姿を生徒に見せようと「メトロック」を計画。チラシを作って来場を呼びかけると、「これほど集まるとは思わなかった」というほどの人数が詰めかけた。
「楽器でも歌でも、何かやってみたいという人は、夏休みに練習して、2学期に一緒にやってくれるとうれしいな」と呼びかけてスタート。大きな手拍子を受けながら演奏し、最後はみんなと大きな声で合唱した。春日さんは「ここに立つのはわれわれだけじゃない。ぜひ、君たちも立って」とさらに呼びかけ。光井大我さん(1年)は「自分も手をたたいたり一緒に歌ったりして、めっちゃ楽しかった」と話し、屋敷聡さん(同)は「夏休みに練習して、自分もボーカルをやりたい」と目を輝かせた。
演奏後、「大野君も喜んでいるね」と声をかける職員もいた。「(大野さんと)一緒にはやれないけれど、一緒にやっているような気持ちだった」と春日さん。「音楽で、子どもたちと一緒に表現することを楽しみたいという大野さんの思いを、引き継いでいきたい」と話す。生徒たちには「ここから放課後の活動につながったり、人前で表現したりするきっかけになって、さらに広がっていってほしい」と願っていた。