“粧衣”衣服作家谷口俊樹さん 服でつながる縁「灯縁」定期開催

粧衣(よそい)の名で活動する松本市筑摩の衣服作家、谷口俊樹さん(29)は3月、同市惣社のアトリエをギャラリーとして定期的に公開する「灯縁(ともしえ)」を始めた。
14畳ほどのスペースに、谷口さんが自然素材で作った服や、別の作家のろうそくなどの作品も並ぶ。鑑賞したり、コーヒーを飲みくつろいだり、雑談したりして過ごせる。
開催は毎月第1水曜日と第3土曜日で、午前10時~正午、午後1~3時、同4~6時の各日3回。笑いあり涙ありの雑談会になった回や、終日参加した人もいたという。
谷口さんは「服をじっくり見る人、置いてある本を手に取る人、コーヒーとお菓子を楽しむ人などさまざま。思い思いに過ごしてもらっています」と話す。

服は受注製作暮らし想像し

谷口俊樹さんの服作りは、「内面を揺り動かす服」がコンセプトの受注製作。ギャラリーに並ぶ服はサンプルだ。それを基に依頼者からサイズや好みを聞き、その人の暮らしを想像しながら思いを込めて縫い上げる。現在使っている主な素材は、リネンやラミーなど麻から作る布で、小石をお守りとして襟元に飾ることもある。
これまでに手がけたものは、新郎新婦の結婚衣装やダンサーの舞台衣装、整体師や飲食店の制服など。ほとんどが旅先やアルバイト先で出会った人たちからの受注で作った。これまでの作品の展示会が、今年12月に和歌山県で、来年5月に茨城県で予定されている。

福岡市で生まれて松本市で育ち、小学生の頃から高校時代まで、バスケットボールに打ち込んだ。18歳で上京して柔道整復師を目指したが「肌に合わない」と感じ、「好きな『服』で社会とつながりたい」と方向転換した。
出身高校に制服がなく、私服通学だったことが、服好きにつながったという谷口さん。都内にある夜間の服飾専門学校へ通いながら、“衣服標本家”の長谷川彰良さんに師事。100年以上前の服から型紙を起こして再製する作業を学んだ。昼間は長谷川さんの下で働きながら自身の製作にも取り組み、渋谷のギャラリーや狛江市の自宅アパートで個展を開いた。
卒業後は「製作の現場を知りたい」と、国内外のブランド品のサンプルを作る縫製工場で働いた。「『何かしなきゃ』という気持ちに駆られ、がむしゃらだった」と振り返る。

2年前に帰郷綿花育て糸に

そんな日々の中で「心を落ち着かせて服作りをしたい。綿花を育てて糸を紡ぎ、布を織って服に仕上げたい」と思うようになり、2年前に松本に帰郷した。昨年は朝日村で綿花栽培から取り組む染色家の元へ通い、技術を学びながら、松本市内に借りた畑で白と茶の綿花2種を栽培。量は少ないが収穫した綿で糸を紡いだ。今後も栽培を続け、自身の作品に仕上げる計画だ。
「今は第1章です。いつか広いスペースでギャラリーを開きたい」と、自身の服作りを長いスパンで俯瞰(ふかん)している。「素直にすてきだと思うものを作ったり、紹介したりして、社会とつながっていきたい」と話している。
「灯縁」でのコーヒーは1杯500円、菓子330円など。詳細は谷口さんのインスタグラムへ。