男子プロゴルフの世界で「兄弟プロ」といえば尾崎3兄弟が有名だが、
塩尻市出身の熊谷宇晴(たかはる、22、日本ウェルネス大4年)と地陽(ちあき、19、東京福祉大1年)の兄弟が「レジェンドに続け」とばかりに奮闘している。
兄の宇晴は今春就職する企業の支援を受けてツアープロを目指し、弟の地陽は昨年の県アマチュア選手権を制して頭角を現した。
二つの期待の星が輝き始めた。
【宇晴】QT突破 支援受け挑戦
【地陽】県アマ最年少Vで注目
昨年11月、兄弟が幼い頃からプレーしてきた塩嶺カントリークラブ(塩尻市北小野)で取材した。「(グリーン上でカップインを狙う)パッティングの写真を撮らせて」というリクエストに応え、パターを構えた2人。
最初に宇晴が約5メートルの距離を一発で沈め、兄の貫禄を見せる。次は「パターが一番得意」という地陽が兄と同じラインを狙ったが、何回打っても決まらない。ばつが悪そうに苦笑いを浮かべる弟を、兄が笑顔で見守る。
「どうせなら決めて終わりにしよう」という記者の意地悪な言葉の直後に、地陽がようやくカップイン。2人は晩秋の青空のような爽やかな笑顔を見せた。
2020年の第43回オール信州アマチュア選手権で優勝した宇晴は、大学2年時にプロ登録。全国各地のオープン大会などに参戦しながら、プロツアー本戦出場のシード権を得る予選会・QT(クオリファイングトーナメント)突破を目指している。
全国に約1500人いるプロ登録者のうち、QTを突破してツアーに出場できるのは100人ほどという狭き門。宇晴はおよそ2年かけて昨年、ティーチングプロの資格を取得したが、「目標はあくまでQT突破」と覚悟を決めている。埼玉県に本社を置く企業に就職が内定し、支援を受けて挑戦を続ける。
「25、26歳ぐらいまでにツアーに出場したい」と宇晴。そのためには、グリーン周りのショートゲーム(アプローチやパッティング)が課題と自覚している。
昨年9月の第55回県アマ選手権に初出場し、大会史上最年少の優勝者になった地陽は「(県アマの)レベルが分からず、思い切りやるだけだった」と振り返る。首位タイで臨んだ最終日の2日目、残り4ホールで首位に3打差をつけられたが、そこからイーグルを奪うなどして逆転。「運もあった」と言うが、持ち前の勝負強さを発揮した。
県アマ制覇により、キャディーのアルバイトをしている軽井沢町のゴルフ場などで「周囲の自分を見る目が変わった」と地陽。今年は大学に在籍しながら、兄と同様にQTに挑戦する。目標はこちらもツアープロ。現在は250~260ヤードのドライバーの飛距離を「体をつくり、30ヤードほど伸ばしたい」と意欲を見せる。
父の指導も力に
「いつか2人でプレーオフへ」
兄弟をゴルフに導いたのは、シングルプレーヤーの父・厚水(あつみ)さん(52)だ。宇晴は5歳、地陽は3歳で初めてクラブを握った。父の指導で力を付けた宇晴は埼玉栄高(さいたま市)に進学したが、全国トップレベルの選手が集まる同校ゴルフ部では「底辺だった」。悔しさと同時に、プロという高みを意識するようになった。
2年時に、尾崎3兄弟の長兄で「ジャンボ」こと尾崎将司が主宰する若手育成のアカデミーに入校が認められ、格段にレベルアップした。
地陽も兄を追うように同校に進んだが、入学とほぼ同時に始まったコロナ禍で、高校ではほとんど練習できなかった。進学に合わせて塩尻から埼玉に転居した厚水さんが指導し、大学生になった今も父と二人三脚で腕を磨いている。
宇晴は弟について「自分にないものを全部持っている。一番負けたくない相手だが、早く自分に追い付いてもほしい」と言い、優しい兄の顔を見せる。一方の地陽は「常に自分の先を行ってくれる存在。その時に何が必要かなど、兄を見て判断できる」と、ちゃっかりとした弟の顔だ。
そして「ツアーの最終日に、そろってプレーオフを戦いたい」と二人で口をそろえる。大きな夢がかなう日まで、兄弟の挑戦は続く。