信大医学部付属病院に認知症治療外来 開設の目的や新薬への期待は

国内の患者数が、予備軍の軽度認知障害を含めると1千万人いるとされる認知症。その大きな原因となるアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」が保険適用された。それに合わせ信州大医学部付属病院(松本市旭)は1月23日、脳神経内科に認知症治療外来を開設した。同科の関島良樹教授(58)の記者会見から、レカネマブの効果や費用、外来開設の目的などをまとめ、新薬に期待を寄せる街の声を聞いた。

◇レカネマブとは
認知症患者の約3分の2がアルツハイマー病で、タンパク質の一種「アミロイドβ」の脳への沈着が根本的な原因と証明されている。アミロイドβは記憶障害などの症状が出る10~20年以上前から脳に蓄積し、神経細胞を傷つけるきっかけになると考えられている。
レカネマブは、アミロイドβを減少させることで、認知症の進行を抑制する薬。対症療法だったこれまでの治療と異なり、根本に働きかける初の薬だ。
軽度認知症と、その前段階の軽度認知障害の人が対象で、2週間に1回、1時間ほどの点滴を原則1年半続ける。薬価は年間298万円。費用は患者の年収などで異なるが、高額療養費制度により、70歳以上の一般所得層の場合、年間で14万円くらいだ。
具体的な効果は症状の根治ではなく、認知症の進行を約30%遅くする。軽度から中程度に進むのを2~3年、遅らせるイメージ。症状が進行した人には効果はない。
レカネマブには、脳のむくみや出血といった副作用が約20%の患者に認められ、特に最初の6カ月間に症状が出やすいため、この薬の使用は基準を満たした施設の専門医に限定されている。信大病院では7人の専門医がいる。
◇治療外来について
認知症治療外来の診察には、かかりつけ医の紹介状が必要。当面は毎週火曜と水曜に専門医が診察し、認知症の診断とレカネマブの適応を判定する。通院や経済的な負担があるため、理解して希望した人に治療を始める。
レカネマブの治療だけでなく、精神科や脳神経外科、放射線科などと協力し幅広い診療を進めていく。スポーツ医科学教室と連携し、インターバル速歩などの運動療法も計画している。
大学病院として治療を推進。その後はノウハウや情報を共有し、どの地域でも治療を受けられるよう医療連携を構築していきたい。
問い合わせは、外来南2階受付TEL0263・37・2768

◇街の声
内閣府によると、65歳以上の認知症患者は2012年には7人に1人だったが、25年には5人に1人になる推定も。新薬による治療への関心も高まりそうだ。
松本市の男性(56、会社役員)は「60、70代で発症したら治療したい。家族に迷惑をかけたくないし、シニアの人生を楽しみたい」と期待する。
木曽町の女性(58、認定介護福祉士)は「認知症と診断されれば、家族も本人もわらをもすがる気持ちになるので新薬は希望」としたうえで、「医療に頼るだけでなく、周囲が連携して介護予防の段階からより良い環境をつくり支えていくのが大切では」と強調した。