写真が趣味 生坂の平林さん 撮りたい風景求め県内飛び回る92歳

人との出会いも楽しみながら

自分が好きなことに没頭する時間は、誰でも楽しい。生坂村の平林育雄さん(92)は「県内の美しい風景を見るだけでなく、残せたら」と、写真を趣味に県内各地を飛び回り40年以上。自然の風景を中心に撮った写真は、花々や雪をかぶったアルプスの山々など、季節の移ろいを感じさせる。
テレビや新聞などで情報を集め、撮りたい風景が撮れるまで、何度でも足を運ぶ。「県内は行き尽くした」。撮影時に、画面に前景を入れるのが平林さんのこだわりだ。「単体で十分きれいな景色も、美しさがより引き立つ」という。
美しい風景、人との出会い、撮影スポットの発見…。「生きがいと言えば大げさかもしれないが、撮影が楽しい」。表情が生き生きと輝く。

四季撮り続けて集大成の写真展

4月、集大成となる最後の個展「四季折り々写真展」を、安曇野市のイオン豊科店で開いた生坂村の平林育雄さん。真っ白な花が咲くソバ畑を前にした雄大な御嶽山、色づく紅葉が美しい生坂村の山清路など、好きな場所は毎年訪れるという。中でもお気に入りは、千曲市の「姨捨の棚田」だ。秋、金色の稲穂が青空の下で輝く風景を毎年撮影する。
天候や開花時期のずれなどで、納得のいく写真が撮れないときもある。だが、楽しみは写真だけではない。「知らねえ人に行き会って話すのがいい」。その土地の人との会話から、お薦めの撮影スポットや地域のことなど、いろんな話が聞ける。人との出会いも楽しみの一つなのだ。天候が悪く撮影を断念した日に立ち寄ったラーメン店で、店主に「明日は天気が回復するから泊まっていったら」と誘われ、宿泊させてもらったこともある。そんなエピソードを山ほど持っている。
行きたい場所には基本的に自力で行っていたが、高齢になったため2年ほど前から、車の運転を控えるようになった。代わってハンドルを握るのは横浜市在住の娘夫婦、佐藤敏明さんと千賀子さん。月に1度、一緒に撮影に出かける。
千賀子さんは「父は撮影になると夢中で、先陣を切ってどんどん行ってしまうんです」と苦笑する。撮影したい風景を追い求めるうちに、ついむちゃをしてしまうことは、平林さん自身も自覚している。昨秋の撮影時に転倒し、手足を骨折。以後は落ち着いて撮影することを心に刻んだという。
ただ、被写体に真面目にとことん向き合う姿勢や、センスがある写真は、佐藤さん夫婦の刺激にもなっている。県内の撮影旅行は、今では3人の共通の楽しみだ。「撮影に出かけると、景色も空気も気分も良い」と平林さん。撮影への思いを語る表情は晴れやかだ。