デブリに埋もれたテント場 北ア 涸沢“連休スケッチ”

赤、青、緑…。デブリの中に張られたカラフルなテントが満天の星空と共演。更けゆく夜空にギリシャ神話の星座が回る(5月4日午前1時から2時まで露光)

大規模な雪崩「日本ではない光景」が…

春山シーズンが開幕し、大型連休中の北アルプス穂高連峰・涸沢カール(標高2300メートル)は、大勢の登山者でにぎわった。今春は山岳関係者が「記憶にない」と話す大規模な雪崩が、北穂沢から発生(本紙5月4日付で既報)。涸沢のテント場は大小のデブリ(雪塊)にすっぽり埋もれたまま、様変わりした異様な環境で登山者を迎えた。
【テントの明かりと満天の星空が共演】暮れなずむテント場。赤や黄、緑とカラフルなテントから透ける明かりが周辺のデブリを染め、鮮やかに浮かび上がる。撮影に訪れた5月3~5日は気象条件が味方し、満天の星空も連日広がった。
涸沢ヒュッテの小林剛社長(60)によると、テントの数は250張り。テント場の明かりと星空のコラボレーションを狙い、3日午後9時から約3時間撮影したが、登山者が使う集光型の強烈なライトや、強力な赤色灯が写り込んで失敗。5日午前1時から再び挑戦し、1時間で星空は北極星を中心に約15度回転。思い描いた構図通りの写真になった。
【思い思いに過ごす登山者】「半世紀見てきたが、これほど大規模な雪崩は記憶にない」。小屋開けの入山時(4月17日)に、同ヒュッテの山口孝会長(76)をも驚かせた大雪崩。大型連休中はおびただしいデブリの中にテント場が出現する、例年にない光景が広がった。
5日早朝、穂高連峰の稜線(りょうせん)をじっと見上げるソロテントの男性に声をかけた。「このデブリは日本の光景ではない」と話したのは、大阪府枚方市の森田一徳さん(72)。1985年夏、タジキスタンのコルジェネフスカヤ(7105メートル)に遠征・登頂した大ベテランだ。
夫婦で20代から登山を楽しんでいるという東京都目黒区の中村悟さん(64)と玉枝さん(64)は「デブリの中のテントは初体験。厳しい大自然を身近に感じられ、うれしい」。5日まで3日間滞在して涸沢岳(3110メートル)に登頂するなど連休を満喫していた。
3日、涸沢下部の大雪崩の痕跡とデブリの取材を終え、Sガレで休んでいた記者に、松本市梓川倭の小林誠さん(44)が話しかけてきた。これまで冬山で訓練を重ね、3日は涸沢のデブリの中にテントを張り、北穂高岳(3106メートル)を往復。4日は午前3時40分に出発して奥穂高岳(3190メートル)に登頂し、午前8時前にテントに戻り、デブリの上で記念写真に納まった。
【群青の朝に映えるテント】山の朝は早い。午前2時半、テントに明かりがつき始める。ご来光を拝むパーティーが、奥穂高岳や北穂高岳に向かって次々と出発していく。
3時50分。夜明けとともに周りが群青色に染まる時間が始まった。眠っていた大きなデブリが、まるで目を覚ましたかのように刻一刻と青みを際立たせ、存在感を増していく。一つ、また一つとテントに明かりがつき、特に赤いテントは群青色との補色の対比が鮮やかで、辺りを神聖な雰囲気に包み込む。思わず穗髙神社嶺宮(みねみや)が祭られている奥穂高岳の山頂を仰ぎ、全ての登山者の安全と無事を祈った。

(丸山祥司)


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