豊富できれいな水次世代へ 松本の水調査し17年目の藪崎さん

「市街地の至る所で、飲める水が湧き出ている。全国的にも珍しい」─。
総合地球環境学研究所(京都市)の上級研究員・藪崎(やぶさき)志穂さん(48、大津市)は、松本市街地の井戸や周辺の水質調査を続けている。「まつもと城下町湧水群」が環境省の「平成の名水百選」に選ばれた2008年以来で、今年が17年目。
松本を最初に訪れた時、井戸の豊富な湧水を見て「感動した」。調査すると、1キロ四方ほどの地域内で、井戸により水質が違う。これも「珍しい」と言う。
地下水とその源を研究する藪崎さんは、2カ月に1度は松本へ通う。「将来もきれいな水環境が残されてほしい」

平成の名水百選選定を機に調査

松本市街地で水質調査を行う総合地球環境学研究所の藪崎志穂さんは今月9~11日、市内の定点観測箇所などを巡り、水を採取した。9日は松本城南側入り口に近い大名小路井戸。湧水の温度を測り、250ccの容器に採った。10日は市役所屋上に設置した降水をためる容器(5500cc)を回収。他に北馬場柳の井戸、北門大井戸、市街地周辺の小河川、美ケ原高原(降水)なども回った。
採水は2カ月に1度の頻度。職場の京都から片道350キロほどを往復する。「今は残雪の北アルプスが美しい。秋は紅葉など季節によって違う風景に出合え、楽しいですよ」と、労をいとわない。
松本の水質調査は2008年7月が最初だ。所属する日本地下水学会が、環境省の「平成の名水百選」選定を機に「名水のことを記事にしよう」と、会員が各地で水質を調べた。松本では翌年から定期的に行い、13年ころまでは毎月採水。しかし「各地点で水質にあまり大きな変化がない」こともあり、その後は回数を減らした。安曇野や大町などを含めた広域の調査は数年に1回実施している。

藪崎さんが水に関心を持つ原点は「子どもの頃」にあった。千葉県の利根川下流域に住んでおり、「川は汚れている」イメージが強かった。しかし、上流の群馬県へ行った際、透明できれいな川を見て「何でこんなに違うのか、印象に残った」。学生時代から、地球上の水循環を主な対象に水質を調べる「水(すい)文(もん)学」を学び、今日につながっている。研究の主眼は、地下水や湧水の水質を調べ、その水がどこから来てどのように流動しているかの追究だ。

松本市街地の湧水は、大きく見れば北アルプス(西側)ではなく、筑摩山系(東側)の影響が強い。細かく見ると、09年に採取した水のイオン溶存量を示すヘキサダイヤグラム(水質組成図)では、井戸によりその形が異なる。例えば、北馬場柳の井戸や地蔵清水の井戸は、ナトリウムイオンの値が他と比べて大きい。この場合は「他の地下水と異なる帯水層があると考えられる」(藪崎さん)。
北馬場ばかりでなく、市街地の限られた区域でこれだけ水質に違いが出るのは「他(松本以外の地域)には知らない」と藪崎さん。その原因は完全には分かっておらず、研究の課題でもある。
地下水は普段、人々には見えにくい存在。山林の伐採、農工業、家庭排水などの人為的なものが徐々に影響を及ぼす可能性がある。藪崎さんは「水の流れを知ることは、地下水資源を守るとともに涵(かん)養(よう)される元(水源)を守る上で必要。今ある良好な環境を持続的に保っていくために、調査データを蓄積し、地下水の状況を把握しておくことが大切」と話している。