「阿寺ブルー」大桑の河合さん 阿寺渓谷愛を胸に活性化へ事業着手

木曽の魅力 世界に発信したい

渓谷を流れる阿寺(あてら)川の澄んだ青色が「阿寺ブルー」として親しまれている大桑村野尻の阿寺渓谷。散策できる約6キロの渓谷沿いにはさまざまな見どころがあり、観光客の人気スポットになっている。
河合毅さん(62、同村長野)は昨秋、株式会社「阿寺ブルー」を立ち上げ、阿寺渓谷周辺の活性化に取り組んでいる。7月からの繁忙期を前に新たな仕掛けも進行中。訪れた人が森林リゾートをより楽しめるようにする。
同村出身で大学進学を機に離れ、東京で約30年働いた後、一念発起してUターン。自身が遊んでいた頃と変わらない阿寺渓谷への愛着を胸に、事業に着手した。
手付かずの自然が魅力でもあるエリアを観光資源に─と取り組む河合さんを訪ねた。

休憩所やサウナ 人を呼ぶ仕掛け

阿寺渓谷の入り口から上流に約3キロ。「中八丁吊(つ)り橋」近くの一角に7月、新たに休憩所ができる。従来の自然は崩さず低木を刈るなどして、ハンモックやベンチを設置する。
仕掛け人は、渓谷周辺の活性化などに取り組む「阿寺ブルー」代表の河合毅さん。7月13日~9月1日に渋滞緩和などを目的に車両規制が行われるため、渓谷を散策する人がひと休みできる場所として整備した。
この夏はまた、キャンプ場にテントサウナを導入。昨年から始めた渓谷内を走るレンタサイクル事業や、ガラスパネル加工を手がける木曽駒ミクロ(木曽町新開)と共同開発した阿寺渓谷のオリジナルアクセサリー販売も継続。「自然を生かしつつ、地元にお金が落ちる仕組みも考えたい」と河合さん。
大桑村野尻出身。木曽西高校(現木曽青峰高校)から都内の大学へ進み、東京にとどまりコンサルタント会社に就職。約30年、官民連携推進事業で都市計画や観光推進などに携わった。
転機は新型コロナウイルスの流行。仲間と観光関連会社を立ち上げる予定だったが、3年間話が進まず、その後の自身の生き方を模索した。同じ頃、仕事で木曽町を訪れ、手付かずの自然が残る風景を見て感銘を受けた。「木曽で観光業に携わり、地域に貢献したい」。56歳で会社を辞め、大桑村の古民家に移住した。

多彩なアイデア 生涯かけ挑戦を

2023年には約4万9400人が訪れた阿寺渓谷。人口減少対策の一つとして村が20年3月にまとめた新たな総合戦略に観光資源の活用がある。同渓谷は旧中山道の野尻宿、須原宿と共に村内の観光スポットだ。
河合さんは事業着手に当たり昨年、会社を設立。阿寺渓谷キャンプ場の指定管理者となり、渓谷全体の運営や観光創出に取り組む。今後は、村内の空き家活用や地場産品の振興、野尻宿や須原宿を周遊できる仕掛けも考えたいという。
「木曽に移住するのは思い切った決断だった。でも、古里に呼び寄せられたような気もする」と河合さん。渓谷を流れる阿寺川は、自身も中学生まで夏はほぼ毎日通った村民の遊びの場であり、家族の憩いの場でもある。「親から“守るべき川、自然”と教わってきた」という。
事務所を兼ねる古民家の玄関には、計画したプロジェクトと同じ数の鍵をボードに掲げた。阿寺渓谷から旧中山道宿場町、木曽広域など、エリアを広げながら、その数50余り。生涯をかけ進める予定だ。「とてもやりがいがある。ゆくゆくは木曽のブランド価値を世界に発信するのが夢」と笑顔。
観光客が増える一方、もてなす側の人手不足といった課題が重くなりつつある。「観光を盛り上げるには一人ではできず、住民や民間企業、行政などチームで取り組むのが重要。まずは自分ができることを積み重ねていきたい」。挑戦は始まったばかりだ。