「江戸の妖怪・幽霊たち」展日本浮世絵博物館学芸員 五味あずささんに見どころを聞く

人々の行動や姿現した理由も

松本市島立の日本浮世絵博物館は9月23日まで、「江戸の妖怪・幽霊たち」をテーマにした企画展を開いている。時に恐ろしく、時にチャーミングな妖怪や幽霊が登場する浮世絵の木版画を、前期と後期合わせて140点展示。作品の見どころや魅力を同館学芸員の五味あずささん(32)に聞いた。
怪談ものの演出は、江戸時代も夏が多かったことから、「夏休みに子どもたちと一緒に浮世絵の世界を楽しんでほしい」と、このテーマで初めて企画した。
【見どころ(1)妖怪に対する人々の行動】
鬼や妖怪などに遭遇した時の行動は人によってさまざま。勇敢に立ち向かい戦う、弟子入りして武芸を身に付ける|など、行動の違いも面白い。
歌川国芳の「鞍馬山之図」には、源義経の幼少期「牛若丸」が、白ひげに赤い衣をまとった大てんぐ「僧正坊」から武芸を教わる様子が描かれている。てんぐを相手に熱心に稽古に励む牛若丸の、軽やかな身のこなしが伝わってくる。
物語「大江山鬼退治」を題材にした勝川春亭の作品には、悪事を働く鬼に対して勇敢に立ち向かう、源頼光や家臣の四天王らが描かれている。大きな体の恐ろしい鬼に立ち向かう一方で、体が小さな子鬼たちが、ほうきで軽く掃かれている姿に、「ついクスッと笑ってしまいます」と五味さん。その対比によって、戦う武者たちの力強さをより引き立たせる描写だ。
【見どころ(2)幽霊になった理由】
強い恨みや心残りなどから、死後に幽霊や怨霊として姿を現す人々。どのような理由なのか?
紀州・道成寺にまつわる「安珍・清姫伝説」を題材にした月岡芳年の作品は、思いを寄せた安珍に裏切られた清姫が、蛇体となって川を渡る様子が描かれる。執念から清姫が蛇体に変化する様子は、清姫が身にまとう着物にも表され、三角形を組み合わせた鱗(うろこ)文様が、不気味な蛇を表現している。

浮世絵は、日常生活の一場面や伝説など、当時の流行や関心事が描かれている。庶民に親しまれていた物語を題材にした作品も数多く、現代でも能や歌舞伎などで演じられている。五味さんは「登場人物のダイナミックな動きで迫力ある作品からは、絵師たちの描写力と想像力の豊かさが感じられる」と魅力を語る。
同じ題材でも、描いた絵師や時代によって作風が全く異なる。「物語を知らなくても、浮世絵になじみのない人でも、絵だけを見て楽しめます」と話す。
会期を前期(8月12日まで)と、後期(8月14日~9月23日)に分け、作品は全点入れ替える。前期は、7月12~15日に松本市のまつもと市民芸術館で開かれる「信州・まつもと大歌舞伎」に合わせ、役者絵を多く展示。歌舞伎が庶民に人気の娯楽として、江戸時代から続いている様子を見ることができる。

【江戸の妖怪・幽霊たち】9月23日まで、松本市島立の日本浮世絵博物館。7月28日、8月17日午後2時、五味さんによる展示解説あり(要観覧券、申し込み不要)。午前10時~午後5時。月曜休館(祝日は開館し、翌日休館)。一般1000円、中学・高校・大学生500円。同館TEL0263・47・4440