新雪の穂高岳と共演する秋の雲(北アルプス・涸沢)

前穂高岳(3090メートル、右奥)から続く北尾根の上に現れた秋の深まりを感じさせる波状模様の雲=ニコンD5、AF-Sニッコール17~35ミリ10月7日午後2時11分、涸沢カール

澄みわたる空に大自然のアート

新雪の穂高連峰上空に7日午後、大自然の壮麗なアートを連想させる波模様の「秋の雲」が現れた。
神秘的な風情を漂わせ、涸沢カール上空を一面に覆いながら西から東へと流れる雲。900張りを超えるテント場は「地震雲では」と一時騒然となった。
この雲は、秋を代表する雲の一つだ。サバ(鯖)の背の波状模様に似ていることから「さば雲」と呼ばれている。他に、イワシ(鰯)の群れのように見える「いわし雲」や魚のうろこ(鱗)に似ている「うろこ雲」。一つ一つの雲のかたまりがうろこ雲より大きく、ひつじの群れに見立てた「ひつじ雲」もある。
澄みわたる秋の空に浮かぶ雲の正式名称と出現する高度を調べてみた。魚を連想させるさば雲、いわし雲、うろこ雲は、いずれも「巻積雲(けんせきうん)」と呼ばれている。雲の粒が小さいのが特徴で、高度5千~1万3千メートルに現れる。ひつじ雲は「高積雲」で高度は2千~7千メートル。
「うろこ雲やひつじ雲が出ると翌日雨」の言い伝えも。ことわざ通り翌8日夕から土砂降りの雨となった。
これらの雲は、秋の季語。俳人の石橋辰之助(1909~48年)の句に「谿(たに)さびし穂高の上の秋の雲」がある。静けさが伝わる昭和初期の句か。千張り近いテントでにぎわう涸沢の谷から、新雪の岩峰を仰ぎ秋の雲を眺めた。
(丸山祥司)