松本で相撲甚句教室 初心者も4回で「アードスコイ」

相撲の行事や祭礼、宴席などで歌われる相撲甚句(じんく)。名所や自然、世相まで、独特の節回しで披露する。
「いいもんだ」。初めて聞いた時に松野洋介さん(45)は思った。それから約10年、経営する和楽器店「菊岡まつ乃(の)」松本店(松本市中央3)で教室を開こうと思い立った。
講師は、親交のあった歌い手に打診した。その丸山智之さん(53、埼玉県)は両親が松本出身。快諾した。
初めての教室は6~7月の4回コース。甚句を短期のスクール形式で教えるのは、全国でも珍しいという。初心者大歓迎。いずれ愛好会ができればと松野さんらは思っている。
稽古場は女鳥羽川沿いの同店。2階から間もなく伸びやかな声が響き始める。「アードスコイドスコイ」

腹から声出し体力づくりに

丸山智之さんが相撲甚句に出合ったのは18年前。場所は生まれ育った東京都荒川区。火消し隊の木やりの会だと言われて行くと、隊の頭が相撲甚句を披露した。丸山さんは「洒脱(しゃだつ)で、ちょっと哀愁もある。面白い」と心引かれた。
元幕下力士、大納川(だいながわ)憲治さんの会で習い始めた。会の活動で新年会などのイベントで披露するように。「老人ホームの慰問でも喜んでもらった」
だが、この春に大納川さんが亡くなり、会が解散。今後の活動で思案していたところにちょうど声をかけたのが、菊岡まつ乃の松野洋介さんだった。
店を日本の伝統文化発信の拠点にしたいと構想していた松野さん。その一つに相撲甚句を考えたのは、「ユーモアがある」とその世界観に引かれたこともあるが、楽器が要らないのも理由だ。「身一つで始められる。費用のハードルが低い」
さらに気軽に始められるようにと、師弟関係にとらわれない、短期の教室を開くことにした。「歌好きでも相撲好きでもなくていい」と、間口を広くして邦楽に触れてもらおう、という狙いだ。
教室では、相撲甚句の歴史を学ぶことから始まり、さわりを歌えるまでを目指す。「基本の節は一つ」と丸山さん。マスターできれば、応用で世界はぐっと広がる。
独特の節回しは、のどの使いようが難しそうに思えるが、実は腹から声を出すのがポイントで、体力づくりにもなるという。
今後の展開は、今回の手応え次第。盛り上がって会が発足することまでを見据え、丸山さんはすでに「松本八景」という自作を準備している。
教室は全4回で参加費3千円。初回は6月10日。菊岡まつ乃℡0263・34・4433

松本相撲甚句会 現在は休止中個人で練習も

中信地区ではかつて「松本相撲甚句会」が活動していた。発足は1993年。多いときには男女20人ほどが参加し、月2回の練習を重ねた。96年に「若貴ブーム」の中で開かれた大相撲松本場所に出演したり、2015年、県護国神社で開かれた御嶽海(当時十両)の激励会でのどを披露したりした。
だが、代表で師範だった西村紘文さん(安曇野市)が5年前に亡くなると、活動は自然休止。会員が集まることもなくなったという。
副代表の中村與志人さん(74、松本市)は、個人で発声練習を続けている。同会の節回しは、今回の教室講師、丸山さんが習った大納川さんとは若干違うというが、「もし機会があれば、合わせられると思う」と話す。