【醸し人】#15 善哉酒造 社長・杜氏 穂高啓右さん

名水生かした飽きない味

地下水が豊富で、多くの場所で湧水が出る松本市の中心市街地。環境省の「平成の名水百選」に選ばれた「まつもと城下町湧水群」の一つ「女鳥羽の泉」を仕込み水に使って醸すのが、同市大手5の善哉(よいかな)酒造だ。社長で杜氏(とうじ)の穂高啓右(けいすけ)さん(82)は「この水を使うことでうちの味が出る」。自然の恵みに日々感謝している。
周囲の山々が生み出す、清らかな湧き水が豊富なこの土地には、「昔は幾つもの酒蔵があった」。ウイスキーやワイン、リキュール類など、酒の多様化が進み、時代とともに酒蔵が減少。現在では松本市の中心市街地では唯一の存在となった。
同酒蔵が掘った井戸「女鳥羽の泉」は、深さ約30メートル。そこから湧き出る水は、軟らかな喉越しで、ほのかに甘みを感じられるのが特長という。
こうした水の性質を生かして醸す酒は「主役ではなく、料理の引き立て役。『おとなしい』タイプの酒」。和食にはもちろん、洋食との相性もよく、「甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五味のバランスがとれたスッキリとした味わい。飲み飽きしない」と自信を見せる。
今年の全国新酒鑑評会で金賞を受賞した大吟醸「女鳥羽の泉」は、低温発酵することで吟醸香のフルーティーな香りがより際立っているという。
先代の背中を追いかけ、自然と酒造りの道に。高校卒業後に家業に入り、経営や酒造りを一から学び28歳で社長就任。杜氏として味を守り続け、次世代にも伝統の技術や知識を引き継ぎ、現在も醸造に関することは数少ないスタッフと一緒に行う。
「年も年。体は大変だが、この酒を待っていてくれる人がいる」。気持ちを奮い立たせる源だ。

【沿革】
よいかなしゅぞう江戸時代末期に創業。当時の名前は不明。1892(明治25)年に「穂高醸造店」、1955(昭和30)年に「善哉酒造」に改名。太平洋戦争中には米不足のため10年以上休業した。社名や銘柄にもなっている「善哉」には、「歓喜」の意味が込められている。

【穂高さんおすすめ この1本】
大吟醸「女鳥羽の泉」(720ミリリットル 3300円)

【相性のよい料理】
刺し身や煮物などの和食全般

【連作先】
善哉酒造 TEL0263・32・0734