
夏が苦手な牛 経営コストも上昇
「牛はおなかに湯たんぽがあるようなものだ」と酪農家の三村誠一さん(64、松本市波田)は表現する。消化の過程で発酵が起こり、熱を持つ。だからただでさえ牛は夏が苦手なのに、近年は酷暑が重なる。経営する人間もつらさが募る。
三村さんの牛舎には、天井から送風ファンがずらりと下がる。暑さで、ここ7年で台数は2割増え、フル回転する期間が延びた。電気代は、単価も上がり、かさむ一方だ。
暑さ対策では、朝の餌を少なくし、夜に回す工夫もある。昼間は食欲が落ちるからだ。
そういう手間をかけても、牛が出す乳量は普段より10~15%減ってしまう。加えて、暑いと人間が飲む消費量も減る。夏場、酪農家は辛抱を強いられる。
そんな折の朗報なのかもしれない。今月、生乳取引価格(乳価)が1キロ当たり4円引き上げられた。電気代など光熱費の他、飼料代や輸送費といったコストが上昇する中で、経営の助けになる。
ただ、喜んでばかりもいられない。ここ数年、乳価アップのたびに消費が落ち込んだ。「この際、買う方にも適正価格というものを考えてもらえれば」と三村さんは願う。
昨年、国内の酪農家が初めて1万戸を割った。5年で3千戸余りが離農したことになる。三村さんが組合長を務める南信酪農協でも、昨年と一昨年で9戸減り、34戸になった。厳しい経営環境で、主に家族経営の淘汰(とうた)が進んでいる。
大規模化が進む一方で、持続的な経営ができるような値上げが模索される─というと、昨今のコメ作りの状況にも重なる。ただ「生乳は日持ちがしない」と三村さん。安定供給という意味では、国産や地産であることにより重みがある。
さらに酪農の場合、子牛から搾乳できるまで育つのに2年かかる。足りなくなってもすぐには増やせない。
牛乳のアミノ酸と乳糖は熱中症予防に効果があるという。残暑に、牛乳の恩恵と適正価格を考えたい。