
一人一人のペースを大切に
ピアノは習い事として高い人気を誇る一方、「座っていられ
ない」「動き回ってしまう」といった理由から、レッスンにつながりにくい子どももいるという。
松本市島立のピアノ講師六郷栄夏さん(47)は、そうした現実を知る中で、山口県発祥の音楽団体「アミポルテ」と出合った。障がいの有無や年齢にかかわらず、誰もが音楽を楽しめるという理念「音楽はボーダーレス」。子どもの特性に応じて安心して参加できる点にも、心を打たれた。
「ここなら救える子がいる」と感じた六郷さんは、1年前にフランチャイズに加盟。全国28カ所のうち、長野県では初となる「アミポルテ松本島立教室」を開設した。現在は2歳から中学1年生まで16人が通い、それぞれのペースで音と向き合っている。
自身の体験経て「楽しいが一番」
東京で生まれ育った六郷栄夏さんは、幼少期からピアノの英才教育を受けてきた。中学1年の頃、「自分は本当に弾きたいのか」と疑問を感じ、ピアノから距離を置いた。以後13年間、鍵盤に触れなかった。
高校卒業後は音楽とは無縁の仕事に就いたものの、やりがいを見いだせないまま5年が過ぎた。「生きがい」を探す中で、たどり着いたのがピアノだった。26歳で鍵盤に向かった時、初めて心から「楽しい」と感じられたという。
翌年、武蔵野音楽大に入学しピアノを専攻。卒業後はチェコ・プラハサマーアカデミーのマスタークラスを修了した。中学・高校の教員免許を生かし、31歳からは楽器店や高校で指導者として活動。長女の出産・子育てを機に、一家で松本へ移住した。
現在は夫と11歳と4歳の子ども2人、そして烏骨鶏と共に暮らす。
ピアノを指導する際、根底には自身の体験がある。「やらされていたピアノ」から「やりたいピアノ」へと変わったからこそ分かる、心の揺れ。「子どもの頃の『楽しい』が一番。習いたいのに習えない子を、見過ごしたくない」と語る。
教室では、子ども一人一人のペースに合わせることを大切にしている。幼児向けのグループレッスンでは、音楽と英語を同時に楽しめる教材を使い、クラフトやリズム遊び、指先を動かす活動も取り入れる。音楽を頭で覚えるのではなく、体と心で感じさせる。絵を描くときの色使いなど、自由な発想が受け入れられる体験を通じて育まれた個性は、ピアノの音にも自然と表れていくという。
音楽に触れる輪 地域に広げたい
フランチャイズ契約を結んだ「アミポルテ」とは、フランス語の「友達への扉」からの造語。「正しさを押しつけるより、その子のテンポを大切にしたい」。六郷さんの思いは、保護者にも伝わっている。
5歳の長女を通わせている母親は、「新しい環境が苦手な子ですが、教室には自然になじみ、通っています。先生の寄り添いのおかげで安心して学べ、少しずつ自信を付けています」と話す。
この思いは、教室の枠を超えた活動にもつながる。六郷さんは、「0才からの音楽会&3才からのわくわくコンサート」を、市内外の会場で年2回ほど開く音楽団体「ムジカべべ 0才からの音楽会 松本」の主宰者でもある。プロ奏者の演奏に加え、手遊びやダンス、リズム遊びなどを取り入れたストーリー仕立てのプログラムを提供。子どもたちの動きを受け止めながら、親子が安心して音楽に触れられる場をつくっている。
近年は、教室に通えない子どもたちにも音楽を届けようと、無料の「音楽体験」にも力を入れる。松本市内の児童養護施設や療育センターなどへの訪問を計画中だ。「まずは音楽に触れるきっかけをつくり、地域と共にその輪を広げたい」という。
問い合わせはホームページから。