
昨年松川村に移住した大阪府出身の北川周子さん(55)は、キッチンカーでたこ焼きの販売を始めた。名刺代わりの本場の味と気さくな人柄で、地元の人との距離を縮めている。
「せっかくなら地元の人と仲良くなり、地域のこともいろいろ知りたい」。景色が気に入ったという同村で暮らし始めた当初は、知り合いもいない、しゃべり相手もいない環境。「何かしたい」と思い立って地元の人にも相談し、長年親しんだ大阪の味を提供することが、地域の人とつながるきっかけになればと、秋から同村や周辺で営業を始めた。
来店客は寒さも気にせず、待ち時間に北川さんとの会話を楽しむ。店名は「たこまる」。丸いたこ焼きは食べる人を笑顔にし、北川さんとの縁をまるくつないでいる。
「本業」の傍ら会話も楽しみ
北川周子さんは、教育関係のICT(情報通信技術)システム構築やサポートなどの会社を営む。東京で10年以上暮らしていたが、長女が仕事で松川村に住み始めたのを機に、たびたび村を訪れるようになった。景観の良さ、ゆっくりとした時間の流れを感じるうちに「今の仕事はどこにいてもできる」と考え、移住を決めた。
東京にいた頃、イベントでたこ焼きを作って売った経験があった。人とのつながりを求め、本業の傍ら、たこ焼きを提供しようと準備を進め、昨年秋、村内のシェアキッチンでお試し営業をしたところ、来店客と会話する暇がないほどの大盛況だった。
飲食物を扱う店を営む村内移住者らのアドバイスや縁がつながり、イベント出店にも便利なキッチンカーでの営業に乗り出した。
自身が家庭で出してきたオリジナルの「おかん」の味を提供する。北海道産昆布などのだしをしっかり利かせた生地がこだわり。60代の村内の男性は「だしの味が感じられておいしい」と、何度も買い求めている。
8個600円、12個900円で販売する。3個100円の「子どもたこやき」もある。手軽に食べてもらうための小学生以下の限定価格だ。自身も小さな頃、「おばちゃん、たこ焼きちょうだい」と100円を手渡していた。作る立場の今は「晩ご飯もちゃんと食べてなー」と念を押し、おかんの顔でほほ笑みかける。
他に「たこせん」「たません」(各300円)という、信州ではあまりなじみのないメニューも用意した。ソースを塗った大判のえびせんべいの上にたこ焼き、または目玉焼きを載せたもので、「自分が好きだから、メニューに加えた」という。今後は、たこ焼きに使う薄力粉や青ネギなどを地元産にできたら―とも考えている。
出来上がりを待つ間、大阪弁の北川さんと来店客らの楽しげな会話が聞こえてくる。営業中の足元の冷えを緩和する室内履きや自宅の寒さ対策など、北川さんの知りたい事柄に、来店客らが答えてくれる。おいしい店や美容院の情報など、世間話でも盛り上がる。
「小腹を満たしてもらって、おいしいって笑ってもらえたら、幸せですよね」。丸いたこ焼きで心も丸く─。大阪おかんの味と笑顔が、信州の冬と人とをほんわかと温めている。
現在は、JR信濃松川駅前のセピア安曇野(松川村観光協会)の駐車場で、毎週木曜午後2時~5時半ごろに営業している。詳細は同店のインスタグラムで。