旅をもっとしてほしい

【おざわ・きよかず】44歳。中部大人文学部卒。2016年創業。23年3月、タビシロを法人化、代表取締役に就任。
(タビシロ)
松本市城西1-3-6
―この商売やれるんだ
松本市水汲で生まれ、高校は松商学園に進学しました。2年の修学旅行で沖縄に行ったのですが「一緒に行動してくれるこの人は何だろう? バスの中は楽しいし、いろいろ面白く説明してくれる。これは仕事なの?」。旅行会社の添乗員という職業を初めて知り、大いに興味を持ちました。
旅への関心は大学に進学しても募り、2年の時、世界的に有名なバックパッカーの聖地、タイのカオサンロードに行きました。そこで初めて「ゲストハウス」を経験し、衝撃を受けました。人生のターニングポイントだったと思います。
とても安価に宿泊でき、老若男女が国を問わず触れ合える、楽しい文化がありました。ゲストハウスのラウンジに集まって多くの旅人と触れ合い、いろいろなカルチャーを吸収しました。こんな楽しい世界があるのかと思いました。
卒業後は2社ほど旅行関係の会社に勤め、修学旅行や社員旅行の企画をしました 。
その中で「旅と旅行は違う」と感じるようになりました。個人的な所感なのですが「旅」というものは団体ではなく、パーソナルに味わうものと考えるようになったのです。独立心もありました。その時ゲストハウスも頭の中にあったのですが、タイとは物価も文化も違うので、日本では現実的ではないと思っていました。
旅行とは関係ない職業に就き、3年くらい働きました。2015年の夏ごろだったと思うのですが、ネットニュースでゲストハウスが各地にでき始めたと見ました。調べてみると、松本市内にもできていました。
「この商売やれるんだ」と感じ、脱サラを決意。松本商工会議所に相談に行きました。創業セミナーを受けると同時に、物件を探し始めました。
―旅館DIY
松本市城西という地区は、旅館が数軒営まれていたエリアだったようで、現在の物件が見つかり、賃貸契約をしました。
まずはリノベーションをスタート。骨格となる修復部分は大工さんにお願いしました。壁塗りなどは自分たちで修繕しました。フェイスブックで手伝いを募集したところ、延べ80人くらいが手を貸してくれました。時間がかかりましたが楽しい思い出です。
創業セミナーなどで勉強し、部屋数やベッド数などから単価・売り上げなどを算出し、損益分岐点の設定をどのくらいにするかなど、松本商工会議所の担当者と相談しながら計画作りを進めました。

―オープンと努力
開業届を提出し、16年6月4日にオープンしました。ところが2日目には予約ゼロ。
「やっちまった」と心細くなりました。3、4日後くらいに知り合いの知り合いが泊まりに来てくれて、その後ようやく「SNSで見た」という人が泊まってくれました。当時は本当に1~2人しか宿泊がなく、一緒に飲み行ったり、ご飯に行ったり、さらには松本市内を案内したりと、満足度を上げる努力をして、徐々に歩んでいきました。上高地の影響が大きいのですが7、8月の山岳ハイシーズンになって状況が好転してきました。8月に満室になった時は、本当にうれしかったです。
―疫病禍とサウナ
さまざまな課題が日々ありましたが、開業から4年ほどで「松本のゲストハウス」として定着してきたと思います。
しかし、ちょうどコロナ禍となり、かなり経営が悪化しました。20年2月くらいから予約キャンセルが相次ぎ、売り上げが減少し、気が付けば4月の予約はゼロ。本当に深刻な状態になりました。
少しずつ貯蓄してきたお金で、サウナをやろうと思っていた時でした。自分がサウナ好きだったので「いつかやりたい」と思い続け、そろそろかなと考えていましたが、貯蓄を日々の経費に充てる苦しい状況でした。
ただ、持続化補助金の公募などが開示されていたので、「やはりやろう」と思い、松本商工会議所に相談し申請しました。
サウナオープンは21年3月7日。情報を公開すると、何と2カ月先まで予約がいっぱいに。起死回生の思いでした。今はスタンダードになりましたが、ロウリュスタイル(熱したサウナストーンに水をかけ蒸気を発生させる方法)を取り入れたことが良かったと思います。県外宿泊客だけでなく地元の方々にも利用してもらえました。
―旅をしてほしい
23年には法人にしました。約10年、一時代を経過した印象があります。この間東京などでは、20~30代前半のオーナーによる、おしゃれで洗練されたゲストハウスも出始めました。自分たちも、もう一度ゲストハウスを見直す必要があると考えています。立地やサービスなどを含め、新しい展開を提供していきたいです。
商売柄かもしれませんが、多くの人に旅をしてほしいと願っています。個人的な印象ですが、学生の一人旅が減っているのでは。コロナ前は、多くの学生が「ゲストハウスって楽しい」と言って泊まっていきました。
国内外を問わず、またゲストハウスを問わず、あらゆるスポットを旅して、多くの文化に触れてほしいです。
(聞き書き・田中信太郎)
