2020.11.19 日本地域情報コンテンツ大賞・タブロイド部門で2年連続優秀賞

[創商見聞] No.4 奥原 陽一(マテリス株式会社 代表取締役)

パウダーに見出した未来

―パウダーを事業に選んだ理由は。
「前職の広告代理店勤務時代に、粉末を製造する新事業を起こした社長に出会ったことがきっかけです。そこで粉体工学という学問があることを知りました。もともとドイツなどの海外で発展し、戦後目覚ましい成長を遂げた技術で、日本でも次々と優秀な紛体機器メーカーが生まれました。とはいえ、他の産業と比べ歴史は浅く、技術革新もあまりされなかったため、『細かな工夫によって、まだまだ入り込む余地がある技術領域だな』と、その将来性や、素晴らしさに魅せられ、『これだ!』と決めました」

 ―現在の主力商品は。
「乾燥おからを粉末化した『おからパウダー』です。これはすでにスーパーなどでも販売されていましたが、粉が粗いため、料理する側としては多少使い勝手の悪いところがあり、さらに吸水性が強い食材なだけに、仕上がりもパサつきやすいという弱点がありました。
そこで当社は、この乾燥おからをお菓子作りにも利用しやすいように、薄力粉レベルの30㍈まで粉砕し、他社よりも吸水性を抑えた粉末を作りました。これは多くのお客さまより、高評価を頂いております。
もちろん、微粉末で分散性も良いことから、みそ汁やスープ、スムージーにも入れられます。
おからはもともと食物繊維が豊富で、栄養価の高い食品として注目されているので、健康志向の高い人や高齢の方にも手軽に食べてほしいですね。最終的には海外に向けても日本の新しい大豆加工食品として展開したいと考えています」

―販路開拓について。
「今年2月に商工会議所主催の商談会に参加したのですが、商売につながるような前向きな話がいくつもできました。その後、県内大手卸売業者さまとの取引口座開設まで進んだ案件もあったのですが、現状当社としては慎重に進めています。それは商談会で小売業のバイヤーさんとお話をした時に、ものが良いだけで売れるわけではなく、皆が協力し売れるように努力するからこそ売れるのであることを、大いに学んだからです。問屋さんとの取引実績、コスト、納期、包装のデザインなど、当社が対応し学ばなければならない点がたくさん出てきました。素直に『ああ、これでは売れないな』と思い知らされたのです。改めて、食品業界への参入の難しさを痛感しました。私にとってこの気付きが得られただけでも、この商談会は大きな収穫でしたし、この経験が次の商談会できっと生かされるであろうと確信しました。
現在おからパウダーに関して、自社製品としてはこれからですが、先行して加工食品商社へのОEМ(相手先ブランドによる生産)供給を行っています。ОEМ生産は定期的な仕事としての確実性、信頼性が高く、利益率は変わるものの、自社製品の市場性把握や、商品自体の認知度向上という意味では即効性があります。こういった仕事も含め、今はさまざまな方法を模索中ですね」

 ―食品以外の事業について
「最近取り組んでいるのは、3Dプリンター向け樹脂材料の開発事業です。今、樹脂粉末を使用する3Dプリンターの主材料は、ナイロン樹脂が主流なのですが、当社はより耐衝撃性、耐候性に優れたPC(ポリカーボネート)樹脂に着目し、容易に粉末化できる技術を開発しました。その技術によって生まれた素材が、「ポリカ‐3Dパウダー」です。3D造形に大幅に取り入れられるかどうかは、まだこれから検証を要しますが、それ以外でも、新たな素材、製品開発の選択肢として幅広く提案していく予定です。まずは年末に予定されている国際紛体工業展にてPRしていきたいと考えています。安全産業にも幅広く使われているこのPC樹脂が、3Dプリンターで使われるようになれば、マーケットの拡大も大いに期待できます。
そうなれば材料のサプライヤーにもなれるし、3Dプリンターも導入すれば、自社で造形(生産)までできる。パウダーという素材があることは、さまざまな事業展開の可能性が広がるということでもあります」

―5年後、10年後のビジョンは。
「まず、5年後には自己資産となる工場を建設したいですね。材料は海外で作る方が有利な点もあるので、海外も含め幅広く検討していきます。逆に技術開発に関しては、長野県ほど適した場所はないと思っており、私の頭の中には既に新型粉砕機開発の構想があります。材料は海外メイン、技術開発は県内と、それぞれ適した場を選んでいきたいです。
そして、その先10年後には上場を目指しています。上場ですから、そうやすやすとはいきませんし、多くの優秀な人材も必要となります。そこをどう達成し、補正していくかが経営者の腕の見せどころですね。過去の職歴の中で、私はマネジメント者がいかに重要かという事を学びました。役員から先輩社員に至るまで、マネジメント者がいかにやる気を持って組織を、会社を支えられるかが大切です。
とはいえ、社長は孤独ではありません。起業した時、想像以上にいろいろな人の支援があるということが、やってみて初めて分かりました。皆さんの支えがあっての起業でした。今後会社をどういうふうにしていきたいかといえば、やる気のある人材を引き寄せて、『社員がやりたいことをやれる会社』にしたいです。社員がやりたいことをやれる=自己実現ができるということでなければ、お客さまの希望を実現することもできないと思っているので、これは企業理念として強く持っています。お客さまの希望を一つ一つかなえ、最終的にはそれを次世代への貢献や人類の発展にもつなげていく。それをパウダーで実現するのが私の夢です」

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【おくはら よういち】 マテリス株式会社 代表取締役 松本市(旧安曇村)出身 40歳。松本深志高校を卒業後上京し、帰郷後大手広告代理店に就職。求人広告営業などを8年間担当する。もともと起業意欲が強く、世界に通用するようなビジネスを探していたところ、粉末事業を始めた会社と出合い、転職。8年間の修業の末、2014年9月に塩尻市広丘で起業。粉砕機の開発、商品製造など自社で行っている。