[創商見聞] No.92 「SS・Design」 (小平 博史)

 「創商見聞 クロスロード」の第92弾は、昨年5月に塩尻市広丘吉田に住宅リフォームなどをベースに建築会社を創業した「SS・Design」。小平博史社長に少年期からの半生を振り返りながら創業への心境などを聞いた。

やっぱり仲間と家を造りたい

【こだいら・ひろし】52歳、上田市出身、福井大工学部応用物理学科卒。ハウスメーカーに約27年勤務。23年5月創業、代表取締役社長就任。

「株式会社 SS・Design」

塩尻市広丘吉田394ー1 ☎0263-88-3622

―改造模型とマムシ
 小学校低学年の頃は、テレビアニメ「機動戦士ガンダム」(1979~80年)が放送され、日本中大ブームでした。小遣いの100%を「ガンプラ」に注ぎ込んでいました。「ザク」「グフ」「ドム」など次々登場してくるモビルスーツのキャラクターに魅了され、目の色を変えてプラモデル作りにのめり込んでいました。
 当時の100分の1スケールの「ガンダム」(RX-78-2)のプラモデルは、股関節が動かない。でも「グフ」(MS-07B)は、股関節のパーツがあり動きました。だから、カッターで熱してパーツを切り替え、接着剤で再度粘着させ、動かせるよう改造しました。
 その後も改造が得意でいろいろ作り、漫画雑誌「コミックボンボン」(講談社)で連載されていた「プラモ狂四郎」の改造投稿コーナーに作品が紹介されたこともあります。SNSもない時代で、全国雑誌に掲載されることは大変難しく、とてもうれしかったです。
 でも、小学生にとって1機千円もするプラモデルはとても高価でした。半年分の小遣いでやっと買えるくらいでしたので、資金をどうするか―。
 当時は丸子町の鹿教湯地区(現上田市鹿教湯温泉)に住んでいました。今はもうありませんが、「マムシセンター」というマムシ料理を提供している店があり、捕獲したマムシを1匹2千円で交換してくれました。
 学校の仲間と山々を歩き、「マムシ狩り」をして10匹集め2万円に換金してもらうはずでしたが…。1週間後に学校に2万円分の文房具が届き発覚、当然大目玉。めちゃめちゃ怒られました。
―ハウスメーカーに勤め
 ものづくりに熱中する少年期でしたが、福井大に進学し、アモルファス薄膜の研究をしました。簡単にいうとCDやDVDなど光デスクの基礎研究です。アモルファスとは「非結晶」という意味で、結晶と非結晶を比較し、光の透過や反射・吸収の違い、構造などを研究していました。
 研究を続けたい思いもあったのですが、就職を選び、県内のハウスメーカーに技術職として内定しました。
 建築士と施工管理技師の資格を取得し、設計や積算、工事管理などを担当して27年勤めました。戸建て住宅の仕事から、軽井沢の高級別荘や他県の大型医療施設案件まで、約700案件ほど携われたと思います。 
 長く働けたので一言では言いづらいのですが、大きな仕事に関われて成長できたこと、業界の厳しさから精神的に苦労を背負ったことなど、さまざまな経験をしてきました。
―創業のビジョン① 
 30代後半ぐらいから、創業を考え始めていました。コロナ禍前の2019年は本格的に考えましたが、そのまま仕事を続けました。でも50歳前に、27年お世話になったハウスメーカーを退職し、縁のある同業社で2年弱働きました。
 最初の会社を辞めた時、すぐに創業したい思いもありましたが、気持ちが固まりませんでした。でも周りの仲間たちがいろいろ困っていた。営業や施工管理関係者、特に職人さんたちに仕事がなく、生活の不安を訴えていました。腕の良い仕事のできる仲間たちの現状を見て、やっぱり仲間と家を造りたいという思いが強まり、再度創業のビジョンが膨らみました。退職して、仲間と結束し会社を立ち上げる決心をしました。
―創業のビジョン②
 コロナ禍前に創業を考えた時は、勢いと気合だけだったかもしれません。管理技術職は、経営に通じる部分は確かにありますが、創業や社長の仕事はやっぱり違うと感じています。さまざまな手続きが大事で、知識を学ばないといけません。松本商工会議所へ相談に行き、22年度の創業スクールに通いました。スクールに通いながら、同時進行で事業計画書や必要資料などを作成していくのですが、明らかにスクールの同期と規模が違いました。
 周囲は飲食店などの創業計画が多かったのですが、自分は住宅関連なので資金計画が一桁大きい。「大丈夫かな」と思うことが何度かありました。でも、松本商工会議所から県で運営している創業支援拠点、信州スタートアップステーションの中小企業診断士さんを紹介してもらい、いろいろ進めることができました。
 23年5月に創業しましたが、銀行の融資は厳しく、当初事業計画の5分の1の創業資金でスタートしました。
 最初の仕事はトイレの修復で、あまり利益は出せませんでした。でも経験豊かな職人、設計士、施工管理や営業など、本当に恵まれた仲間たちのおかげで、工事件数は増えていきました。創業資金は大きくなかったけれど、仲間のおかげで初年度に良い売り上げを出せました。実働7カ月で65件のリフォームやエクステリアの仕事ができました。大手に負けない確かな技術と人脈を仲間たちが持っている証拠だと感じています。
―新築着工を目指す
 あまり大風呂敷は広げられませんが、24年度は新築物件3棟が目標です。昨年のリフォーム案件はほとんどが100万円以下だったので、もう少し大きな案件を受けられるようにしたい。
 でも、会社として成長しても人として増長しないことを心がけたいです。売り上げを伸ばすのは良いことかもしれませんが、その際、仲間を困らせないことが大事。
 創業したばかりなので、10年後のイメージはあまりないのですが、困っていないくらいの経営状況で後継に引き継げたらいいなと考えています。日々努力し、仲間の家族、もちろん自分の妻や子どもとも一緒に、幸せを目指します。