[創商見聞] No.38 北アルプスブルワリー 氏家 太郎(代表取締役)×成沢 隼人(専務取締役)×松浦 周平(取締役)

水の良さ生かすクラフトビール、大町盛り上げ

―大町でなぜビールを造ろうと
 「2005年に日本スキー場開発を創業し、最初の仕事が鹿島槍スキー場でした。現在、全国8カ所でスキー場を運営していますが、ここまで展開できたのは、鹿島槍で仕事をするチャンスをいただいたからだと思っています。17年にはスキー場の仕事は退きましたが、お世話になった大町を何らかの形で盛り上げることはできないか、鹿島槍時代から親交のあった2人と話をしました」(氏家)
 着目したのが大町の水。大町の水道の水源水を使ったペットボトル「信濃大町湧水」がモンドセレクション最高金賞を受賞していることを知り、それなら、大町のおいしい水を使ってビールを造れば、食の面から観光の目玉になるんじゃないかと、3人で話が盛り上がったんです。
 では、どこでやるか。大町が一番元気になる場所がいいねと。中央商店街は14年前に大火があり、銀行や商工会議所が目の前という一等地でありながら空き地のままでした。ずっともったいないなという思いがあり、この場所でやろうと決めました。地主の塩原義夫さんも快諾してくださり、昨年6月には会社を設立しました。
 「私が住むカナダ・バンクーバーでは、至る所に小さなブルワリーがあり、いろいろな人がビールを造っています。そんな様子を見て、日本もいずれこういう時代が来るんだろうなと感じていました。だから、大町でもビールが造れるという確信はありました」(氏家)
―松浦さんが中心となってビール造りが始まった
 東京の見本市に出かけ醸造設備を検討。醸造までサポートしてくれる大阪の会社に決めて2カ月間、研修に行きました。実際に造ってみるわけではなく、醸造の現場を見て、覚えるんです。「機械を持ち帰った後は、ひたすら機械を操作して、このバルブを開けてみたらどうなるんだろうと開けたら水浸しになったこともありました」(松浦)
 最も神経を使うのが衛生管理です。ビール酵母だけを働かせるためにはタンクに菌があってはいけないので、とにかく掃除をして、清潔にしています。レシピがいくら優れていても、ちょっとした菌で全てが台無しになってしまいます。
 7月にビアパブがオープンし、大勢の方に足を運んでいただきました。「これまでは松本市や白馬村など近隣のクラフトビールなどを提供してきましたが、大町の水を使った自社醸造のクラフトビールも楽しんでもらえるようになりました」(成沢)
 大町の水は超軟水で、ラガー系のビール造りに適しています。ピルスナーを中心に、「水の良さを生かす」がこれからの味づくりのベースになります。
―今後は商工会議所との連携も
 大町商工会議所からお話をいただき、11月に東京の秋葉原で開かれる「日本百貨店しょくひんかん」に出品します。このイベントは、日本全国のこだわりの商品をPRする場です。地域の人が好きになってくれても、それを発信できなければ独り善がりになってしまいます。そういう意味からも、今回の出品はいい機会。これからも一緒に地域を盛り上げていけるといいですね。
―今後の展開は
 現在の設備では、年間30~40㌔㍑の生産を見込んでおり、非常に貴重なビールだと思っています。北アルプスが好き、大町に行ってみたい、そんな皆さんにまずは届けたいと思っています。
 将来的には、この地域で栽培した大麦やホップを使ってビールを造りたいという思いもあります。「地域に愛され、地域を発信するビールを造る」―、私たちのビール造りはこれに尽きます。

【うじけ・たろう】
51歳、奈良県出身。2005年に日本スキー場開発創業。18年、北アルプスブルワリー設立

【なりさわ・はやと】
35歳、大町市出身。合同会社グリーン役員

【まつうら・しゅうへい】
39歳、兵庫県出身。自家焙煎珈琲(ばいせんコーヒー)UNITEオーナー