[創商見聞] No.87 「こだま食堂」 (児玉 陽子)

 「創商見聞 クロスロード」の第87弾は、松本市梓川梓で、フェアトレードと地産地消にこだわったスパイスカレーと石窯ピザの店「こだま食堂」を営む児玉陽子さん。これまでの経緯と今後の思いを伺った。

世界に幸せの循環を

【こだま・ようこ】52歳、大分市出身。県立大分東高卒。英国・クライストチャーチカレッジへ語学留学。オーストラリアなどでワーキングホリデー、日本で飲食店スタッフなどを経て、2009年長野県に移住。2017年11月創業。

こだま食堂

松本市梓川梓4190 ☎0263-78-3958

―パーマカルチャーとの出合い
 大分県の出身です。高校卒業後、イギリスに語学留学し、大分で英会話講師に。再びニュージーランドでワーキングホリデーを体験し、また大分に戻って旅行会社に勤めた20代でした。
 その旅行会社はオーストラリア方面の仲介が得意で、個人留学からファーム(農場)ステイ、地元市町村の研修旅行なども手がけていました。ある自治体のオーストラリア視察でツアーの手配をしていた際、「パーマカルチャー」という言葉に出合いました。
 英語のパーマネント=永続性、アグリカルチャー=農業、カルチャー=文化を組み合わせた造語で、永続可能な循環型の農業を基本に、人と自然がともに豊かになるような生活をデザインする手法を意味します。
 最近は日本でもSDGs(持続可能な開発目標)の考え方が広がっていますが、25年くらい前のオーストラリアでは、すでにエコビレッジが存在し、持続可能な暮らしをベースにした実際の生活がありました。
 パーマカルチャーへの関心はその後も高まるばかりで、2001年にはワーキングホリデーを再度取得し、オーストラリアで勉強しました。
―安曇野のパーマカルチャー
 エコビレッジに滞在中、日本でパーマカルチャーをやっている所はないかと尋ねたら、長野県の安曇野市でパーマカルチャーを実践しているペンションを教えてくれました。信州との最初の縁です。
 そのペンションはすでにマクロビオティック(玄米菜食)で全国的な知名度を持ち、日本中から宿泊客が訪れる宿でした。
 帰国後に連絡をとり、半年ほどスタッフとして働かせてもらいました。オーストラリアのようにダイナミックにはできないけれど、日本でも自然に沿った暮らしができると感じられた経験でした。
 その後は大分に戻ったり、インドへ行ったり、静岡で友人のカレー店の立ち上げを手伝ったりして数年を過ごしました。最初のカレーの知識はこの時身に付けました。その後、再度安曇野のペンションにスタッフとして受け入れてもらい、ピザ作りの技術などを覚えました。
―フェアトレード
 大分で旅行会社に勤めていた時、初めてフェアトレード(公平・公正な貿易)という考え方を知りました。途上国で生産された製品や原料を、適正な価格と対等な関係で継続的に貿易をする国際的な取り組みです。今の自分の店でもこの考え方を取り入れ、スパイスなどを仕入れています。


―自分の店を持つ
 ペンションでピザを焼いていた頃から、自分の店を持ちたいという思いは募っていました。でもピザは焼けても「店の切り盛り(経営)」はできない。
 悩む中、友人から上田市にある飲食店でカフェ部門の責任者の仕事を紹介してもらい、2年ほど働き「切り盛り」を学ぶことができました。またその店で、初めて自分の作るカレーをメニューで出せました。その時に「ピザとカレーの店」という構想も浮かんできました。
 並行して取りかかった物件探しは難航しました。イメージは、昭和的な建物で、空き家を利活用。ピザを焼く煙が出るのでご近所は少ないこと、自家栽培する畑も必要…。いろいろな条件を満たす今の店にたどりつくまで3年かかりました。
 見晴らしが良く、美ケ原から上る朝日がとても美しいこの場所に満足しています。
―順調な3年と過酷な3年
 17年11月にオープンし、間もなく6年が経過します。カレーの評判がよく、最初の3年はとても順調でした。
 ところがコロナ禍で状況は一変しました。正直、最初は「コロナなんて都会の騒ぎ」くらいの感覚で、田舎には影響ないと思っていました。しかし、20年5月の大型連休頃からお客さんは途絶え、思い出したくないくらい大変な状況に陥りました。
 松本市の補助金なども利用しましたが、21年夏頃には資金不足になり、初めて松本商工会議所に相談に行きました。入会し、融資元の銀行も紹介してもらいました。
 そろそろ「食堂の切り盛り」から「飲食店の経営」に変わらないといけないと思っていた時期でもあったので、これを機に、経営の基本を学ぶ「次世代経営者育成塾」にも入りました。
 塾では企業の理念や目的、価値など、経営者としての基本から学びました。地元の他の経営者の方々ともつながりができ、さまざまなお話を聞くことができ、貴重な体験となっています。店の経営は3年前よりは良くなりましたが、まだまだ努力が必要です。
―大きな理念掲げて
 塾での学びを通して自分で考え、掲げた、こだま食堂の理念は「食を通して未来をつくる、世界にしあわせの循環を」です。大げさかもしれませんが、サステナブル(持続可能)な食の在り方を伝え、地球に住む誰もが幸せに暮らせる未来をつくりたいと思っています。
 毎日の食事や買い物一つで、地球の環境に優しい行動がとれることを知ってもらう、食堂の小さな試みが誰かの次の一歩につながり、循環する社会づくりにつながったらうれしいです。
 普段使っている食品からまず一つ、オーガニックな商品、フェアトレードな商品を選んで今日買ってもらえたら、うれしいです。
  (聞き書き・田中信太郎)

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