[創商見聞] No.92 「Myim」 (矢口 美喜子)

「創商見聞 クロスロード」の第93弾は、大町市常盤で昨年5月、髪を育てるプライベートサロン「Myim(マイム)」を創業した代表の矢口美喜子さん。生い立ちからの経緯や創業の思いなどを含め話を聞いた。

ママ美容師の価値を上げる

【やぐち みきこ】40歳。大町市常盤出身。松本理美容専門学校通信科卒。安曇野市のサロンでスタイリストを務め、2023年5月創業。

Myim

髪を育てるプライベートサロン

大町市常盤6024-1 ☎0261-85-4406

―大好きな場所
 幼少期から美容師を目指していました。母の美容院だけでなく、父の床屋に付いていくのも好きでした。親が髪を切るたびに付いていって、待ち時間で〝お手伝い遊び〟をさせてもらえるのが楽しく、そのサロンの空間にいるだけで気分が上がっていた記憶があります。
 また、人が髪を切って喜んでいる様子や美しく変わっていく姿に、とても魅力を感じました。中学生で美容師になろうと決意しました。穂高商業高校に進むと、「本気でやりたいなら自分でなんとかしなさい」と両親から言われ、進学準備ではなく、就職活動をしました。
 卒業後、安曇野市の美容室で働きながら松本理美容専門学校の通信課程で学びました。昼間はサロンで働き、帰宅してからレポート作成に励みました。働きながら勉強するのは体力的に大変でしたが、仕事と趣味がつながっていたためか、心理的な「苦行感」はありませんでした。18歳で「稼ぐことの大切さ」を学べたことも大きかったです。
 資格を取得し、6年間ほど安曇野市の美容室でスタイリストとして働きました。所属しながら、美容師組合の大会などに参加しました。大会参加を重ねるうちに良い結果を出せて探究心が高まり、もっと外の世界を見たい気持ちが出てきました。店のオーナーの交流関係で、ロンドン研修に行く機会をもらえました。
―英国サロン文化
 2010年に行ったロンドン研修はとても良かったのですが、改めて日本人の技術やサービスってすごいんだなと思いました。
 日本文化の「おもてなし」は素晴らしい。研修中、シャンプー台では水圧が弱くお湯が出なかったことに驚きました。カラーリングの技術はすごいけど、パーマは少ない。基本的にすきばさみを使わないので、きめ細かいカットはない。けれど、顧客のデザイン性を高めることなどは非常に優れていると思いました。短い期間でしたがとても貴重な経験を積めました。
さらに向上、東京へ
 その後の自分がどうしたいかを見つめ直した時、技術をもっと磨きたいと感じました。11年に27歳となり、やはり「東京でチャレンジしてみたい」と思い、3年と区切りを決め、表参道にあるサロンにアシスタントとして所属しました。
 政治家や芸能人、スポーツ選手など、多くの著名人が利用する有名サロンでしたので、簡単にヘアスタイリストとして所属できるわけではありません。試験も厳しく、アシスタントからリスタートしました。5、6歳ほど年下の「先輩」から教わり直しました。でも、最前線を勉強できたことは何よりも大きく、一流を見られたこと、学べたこと、経験できたことは大きかったです。シャンプーやカラーリングといったアシスタントの仕事でも、「何となく」ではできないと感じました。
 店の基準試験に合格し、スタイリストとして髪を切ることもできましたが、3年と決めていたので地元に戻りました。


―創業計画を進める
 創業のビジョンはだいぶ前から持っていました。業界柄、独立も多く、器具メーカーの創業相談なども利用していました。でも帰郷直後は、まずは別のサロンで働きました。結婚し2人の子どもに恵まれました。子どもたちが少し大きくなり、自宅新築の計画が出てきました。その中で、自宅兼用のサロンを計画しました。 
 創業の準備をいろいろ進めていく中で、地元の大町商工会議所が直接相談に応じてくれました。紹介された創業塾も22年に受講しました。創業計画書を具体的に進め、大町市の起業補助金を申請しました。また県の制度資金を利用して、融資を受ける態勢を整え23年5月に創業しました。
髪育
 オープンし、半年以上経過しましたが、実は創業しながら、もう一つ、髪育専門士(一般社団法人髪育JAPAN協会の資格)の勉強もしていました。昨年12月に取得しました。遺伝や加齢など個人差もありますが、抜け毛、薄髪など、頭皮の悩み相談を受けられる資格です。髪育専門士と美容師、それぞれの角度からサポートできたらと考えています。
 店もプライベートサロンとして1日2件、平均2時間半くらいかけて、カットやパーマ、カラー、髪育の相談をして、丁寧に進めています。アシスタントがいないので損益としては問題ありません。
―美容師の価値を高める
 美容師の価値、特に「ママ美容師」の価値を高められたらと考えています。
 時代とともに改善されてきましたが、仕事と生活のバランスの取れたライフスタイルの定着には、まだまだ課題が多いと感じます。実際に子育てを経験してみて、働くこととの両立や、自分の時間をつくることが、とても難しいと感じました。
 店名のマイムは「Time to Nurture Myself」、つまり「私自身を育てる時間」を元にした造語です。
 命=時間と考え、自分を大事にする髪育時間の空間を提供できたら―。
 自分自身もママ美容師として、さらに磨きをかけていきたいです。