[創商見聞] No.84ERINA (iiNAIL イイネイル)

指先からゆとりと自信を

【みき・えりな】38歳、神奈川県茅ケ崎市出身。岩谷学園アーティスティックB横浜美容専門学校トータルビューティー科卒。2013年海外移住、16年帰国。20年塩尻市移住。21年創業、代表就任。

iiNAIL イイネイル

      松本市宮田23ー1ー3F  ☎080ー7814ー0522               Email beyond24ohana@gmail.com

―ネイルって楽しいかも
 高校生の時、地元神奈川県茅ケ崎市のお祭りでみこしを担ぐことになり、友達と一緒にいわゆる「お祭りメーク」をしました。法被を着て髪を結い上げて。初めてネイルもしてみました。つまようじで、おそろいの「祭」って描き、爪をアート作品のように表現できることが面白かったです。絵を描くことは子どもの頃から好きだったので、そのまま興味が高まり、卒業後は横浜のネイル専門学校に進みました。
 卒業してネイリストになり、ネイル店などに数年間勤務しました。また、母校からインストラクターの話を頂き、2年ほど講師をしたこともあります。
 その後は別の仕事などもしましたが、2013年から夢だったハワイでネイリストを2年ほどやりました。
―ノープラン移住
 帰国後も、ネイリストとして横浜や東京の店舗で仕事をしていましたが、19年の暮れ、塩尻市に移住していた友人から誘われました。
 ちょうどコロナ禍が騒がれ始めた時期で、東京にいる理由もなく、完全ノープランでしたが、「来れば何とかなる」程度の感覚で、移住を二つ返事で決意。流れに身をまかせるように20年4月、塩尻市に引っ越しました。
―在宅ライバー
 転居はしたものの、なかなか仕事が決まらず、1年半くらいはつらかったです。在宅で、テレホンアポインターのアルバイトをしてました。同時にやったのが、インターネットにさまざまな動画を投稿する「在宅ライバー」です。
 24時間ライブ配信をするアプリに登録し、ちょっと歌が得意だったので、リクエストに応じて歌を配信してました。移住したことは公表していたので「たんぼ散歩配信」と題して、地元ネタとして水田や畑の様子を配信しました。 
 「見て見てこれアスパラ! すごーいチョウボウ(超棒)だー(笑)」とか、「お米の田んぼに来てまーす♡」と配信すれば、「お米も田んぼも一緒じゃね…」みたいに、視聴者さんから即コメントが返ってきて、やりとりを楽しんでやってました。散歩配信のおかげで、農作物以外でも地域の名所も巡って、どんどん松本平が好きになっていきました。
―塩尻商工会議所で
 実は東京にいたころ、税務署に開業届は出していました。でも店に縛られるのが嫌で、自分の店は考えませんでした。移住し創業は考えていたのですが、良い物件が見つからず、しばらくは在宅の仕事をしていました。ようやく21年9月ころに今の店舗が見つかり、開業への準備に入りました。
 ゼロからの創業は手探りの連続でちょっと迷走しかけました。現在も同じ担当者さんですが、塩尻商工会議所の創業融資相談窓口に飛び込みました。  「ライブ配信してまーす(笑)」「東京から来て、ハワイにも住んだことがあり…」「5年前くらいに開業届出してまーす」「今、創業したいんですけど」という私からの相談には、かなり戸惑われたようです。
 でも、創業への熱量は感じてくれた様子で、事業計画の立案を助けてもらえました。
 何度も何度も計画書を書き直しました。事務仕事が苦手で作業はかなり大変でしたが、計画性の高い修正や指導をしてもらい、理想的というより、現実的で最小限の融資でスタートする計画を立てられたことは、とてもありがたかったです。21年11月にオープンして1年半経過し、計画書の売り上げに近づいています。


―爪を育てる感覚を
 22年8月、メディカルネイルプランナーという資格を取得しました。
 「事故で指にけがをして爪がきれいに生えてこない」「ストレスから爪をかみ、形がゆがんでしまった」。爪で悩んでいる方は、予想以上に多かったです。男性から「爪の一つだけが汚いので、どうにかならないか」と相談されたこともあります。
 最近は爪を飾るだけでなく、健康な状態を保つ重要性も認識されてきたと思います。ジェルネイルや甘皮処理など、セルフケアをもっと広げ、多くの方々に爪を育てる感覚を持ってほしいと感じています。
―ライフスタイルに合わせて
 先日、計算して、ちょっと自分でもびっくりしました。1日のお客さまは平均6人なので拝見する指は60本。月に25日営業で、月間1500本。年間では1万8千本。ネイルの仕事を始めて18年とすると32万4千本。低く見積もっても25万くらいの指と爪を見てきたと思います。
 お客さまの年齢層は幅広く、オーダーもケアネイル、アートネイルなどさまざまで、デザインも派手なものからシンプルなものまでいろいろあります。
 「仕事でパソコンを打っている時に一瞬手を休めて、ネイルを眺めて少し笑うことが好き」と話してくれた女性のお客さま。80歳の男性で、自分の健康のバロメーターの一つとして爪の手入れにみえる方もいらっしゃいます。
 ヒアリングからお客さまを理解することがとても大切です。ライフスタイルの中にネイルのニーズがどのくらいあるのかを知ることがとても必要で一番大事だと思います。
 すべての爪が一つ一つ違うように、一人一人異なるお客さまを理解して、生活スタイルに合わせたネイルをこれからも提案し、指先からゆとりと自信を持っていただきたいと思います。
 仲間を増やしたい気持ちもあります。移住し、とても感じているのですが、松本平の方たちはお客さまだけでなく、非常に「やさしさ」を持っている方が多いと思います。
 東京の生活で受けていた都会的殺伐感を感じないというか、うまく言えないんですけど、一つの物事に丁寧で、すごく優しい人が多い印象を持っています。だからこそ、この地域で育った人とネイリストとして、一緒にやっていきたいです。(聞き書き・田中信太郎)