2020.2.10 ウェブサイトをリニューアルしました

[創商見聞] No.5 間橋 杏(コンディトライ・アン・マリーレ代表)

地方にこそチャンスがある

―大町温泉郷を創業地に選んだ理由は。
「もともと両親が登山やスキーが好きで、中学生のころから夏休みや冬休みには大町に遊びに来ていました。就職先も軽井沢町のホテルで、その時に地産地消に興味を持ち始め、開店するなら長野県、さらになじみがある大町がいいなと決めました。人口は少ないですが、その分お店も少ないので、逆にチャンスがあると思いました。
決めた時は、『場所的に厳しいんじゃない?』という声もありました。しかし、自分でいろいろ調べる中で、昼間はあまり人が歩いていませんが、温泉郷には旅館・ホテルが10軒あり、そこで働いている仲居さんら従業員を合わせたらけっこうな数になることが分かりました。まず旅館で働く方たちに、家族へのお土産として利用してもらったり、観光客へ紹介してもらったりする中で、徐々に広まっていくのでは、と考えました」

―開店までの経過を。
「物件を探す中で温泉郷のお土産屋さんの方と話すようになり、相談すると、大町市温泉開発の方を紹介してくれました。会ってみると、その方は『商工会議所には相談に乗ってくれる人がいるから行ってごらん』と教えてくれました。
それから商工会議所のセミナー「経営なんでも相談会」(※1)に参加して弁護士や中小企業診断士に税務に関する相談をしたり、商工会議所の方に大町で創業した方や、積極的に活動をしている方を紹介してもらって話を聞いたりして、創業にこぎ着けました。皆さんとは今でもお付き合いがあり、最初のきっかけとして商工会議所に行ったことはとても良かったです。

―Iターンの創業で苦労した点は。
「Iターンだと当然、初めはほとんど知り合いがいません。地産地消にこだわって地元産の食材を使いたいのに、手に入れるすべがない。とにかく商工会議所の方や、当時はまだ少なかった知り合いに相談したり、いろいろなところに『食材ありますか?』と聞いてもらったりしましたが、最初は手に入れるのに時間がかかりました。でもそれがきっかけで、人づてに聞いたリンゴ園の方が紅玉をくれるなど、次第に知り合いが増えていきました。
ある日、知らない方がお店に来て、突然『うちの栗を使ってくれんか?』と言われた時は、びっくりしましたが(笑)、勇気を出して地元の方たちと接して良かったと思いました。
地域に溶け込むため、それからは、イベントや地元の人たちが集まって何かをする時、声を掛けられたら『はい、行きます!』と手を挙げて積極的に参加しています。お店も中心市街地から離れているので、知ってもらうためにもこちらから出て行くようにしています。大町の荷ぐるま市(※2)に出店した後は、街なかからのお客さんも増えましたね

―今後の展望は。
「昨年夏に中小企業持続化補助金(※3)を申請し、冷凍庫を購入しました。今までよりも大量に保存ができるようになったので、今後はそれを利用して、通信販売にも力を入れたいと思っています。
まずは地元のお酒「白馬錦」の酒かすを使った、大町市のふるさと納税の返礼品にもなっているチーズケーキですね。冷凍で、お店から発送できるようにしました。返礼品に提供してから、わざわざ県外から訪ねてくれた観光客もおり、これから外国人の観光客も増えるかもしれないので、利便性のためにもカード決済の導入も考えているところです。
店舗に関しては、イートインをもう少し充実させたい。喫茶スペースでコーヒーやケーキを提供しているので、これからはお店でしか食べられない喫茶限定品を増やして希少性を出したい。スープとパンなどの軽食も用意していきたいですね。
喫茶スペースは需要があって、地元の方はもちろん、観光客も来てくれます。コーヒーを出さない旅館もあるので、『どこかコーヒー飲めるところない?』となった時に、うちを紹介してもらえるんです。
黒部ダムに行く人は特に朝が早いので、お店のオープンも午前9時と、早めにしています。このように、ニーズがあれば検討して応えられるようなお店にしていきたいですね」

―Iターンで創業を考えている人へメッセージを。
「地方、特に大町などの人口が少ない地域だと、『ここには何もないと』とか『ここでは無理なんじゃないか』という声を聞くことがありますが、ないものを新しく生み出すことによって、需要は出てくると思います。
うちのお店も季節によって集客に波はありますが、開店から微増し続け、売り上げ目標も達成できています。なにより最初は『大町なんて駄目だよ』と言っていた地元の方が、お店を開いたら『大町にはこんなものも、あんなものもあるんだよ』と、いろいろ紹介してくれるようになり、さらに地元とのつながりが増えてきました。
『地方だからしょうがない』と諦めずに、ないなら自分で作る。きっと、あなたが欲しいものは、他の人も欲しいと思っているはずです」

地元産の素材にこだわった焼き菓子 喫茶スペースでは常連客と会話も弾む 中山高原の菜の花オイルを使ったシフォンケーキ

※1 経営なんでも相談会…経営上のあらゆる悩みに対し、弁護士や税理士、中小企業診断士などの専門家が相談に乗る商工会議所主催の無料セミナー。
※2 大町荷ぐるま市…大町の中心市街地で開催される軽トラ市。市内外から地場野菜や果物、特産品などが集まり、多い時で約20軒が出店する。
※3 中小企業持続化補助金…経営計画に基づいて実施する販路拡大などの事業に対して、審査の上、その費用を国が補助する制度。

【まばし・あん】 コンディトライ・アン・マリーレ代表
東京都調布市出身 32歳
高校卒業後、菓子専門学校に入学。在学中、オーストリア・ウィーンの菓子店で実際に働き、研修を行う。卒業後に軽井沢町のリゾートホテルに就職し、その後、自身の店を開くため、大町市に移住。平成23年4月に創業。地元産の果物を取り入れ、牛乳もすべて大町の松田乳業のものを使用するなど、地産地消に取り組む。