[創商見聞] No.46 宮澤 紀充( Racconto/ラコント )

―2014年技能五輪で銀賞になった
 第52回技能五輪全国大会(貴金属装身具部門)に出場し、銀賞に終わりました。競技課題は何度も指定寸法、制限時間に収まるように反復練習し、本番に制作したものは練習以上のベストを出せました。優勝の感触をイメージしたのですが、届きませんでした。
優勝すればブラジルで開催される国際大会への出場が待っていました。しかし、それがかなわず、海外に出たい思いから、イタリア・フィレンツェへ留学を決めました。
―イタリアでの生活は
 留学先では右往左往。語学学校で学ぶ傍ら、ジュエリー工房へ研修生として通う予定でした。しかし、現地に着くとその工房から「事情が変わった」と断られ、そこから始まったのです。
諦めずにフィレンツェの街を歩き回り、一番魅力を感じた修業先となる工房を見つけました。しかし、日本人の飛び込み依頼など、相手にしてもらえません。顔を覚えてもらうところから始め、「ここで働きたい、仕事を近くで見せてもらうだけでいい」と、繰り返し伝えました。5カ月たった頃、ようやく前向きな返答をもらえました。
念願の修業生活は充実の毎日。毎朝遅れて到着する店主を鍵のかかった工房の前で待ち、掃除や雑用、店舗のディスプレーで使う壊れたサンゴの修復から始まりました。徐々にもらう仕事が増え、日本に戻る頃には工房に依頼されるほとんどの仕事を任せてもらえるようになりました。工房に遊びに来る職人仲間から、「日本人」と最初は呼ばれていましたが、自分の仕事を見て、「名前は?」と聞かれた時はとてもうれしかったです。
―イタリア生活は1年で帰国した
 帰国後、学生時代の縁から名古屋のハイジュエリー工房で働き始め、独立は考えていませんでした。しかし、そこでの3年の間に、徐々に自分のビジョンに変化が生まれました。
松本に帰郷し、知り合いのイタリア料理店の店主から、松本商工会議所の創業セミナーへの参加を勧められました。創業セミナーでは25人中最年少(「作品のクオリティーが何よりも高かったこと、さらに彼の情熱が支援への理由だった」と商工会議所担当者)。
事業計画、融資希望機材など、綿密なプランを組み創業へ。松本市島内の自宅を今後リフォームする予定で、現在は事務所兼工房として活用しています。
―作品に対する考え方は
 オーダー(依頼主)からのヒアリングが基本。予算、素材(金・銀・プラチナなど)、好きな色、モチーフ(動物・植物など)を聞いてから制作します。
工業製品ではなく、工芸品、手作りを選んでいるのは、機械で完璧に左右対称で作られたものは素晴らしいが、人間の手で限りなくシンメトリーに近づけたもの、技能で裏打ちされた手仕事によって生まれるブレが美しいと思うからです。
中学時代の部活で学んだ剣道の理念「剣の理法の修練による人間形成の道」に影響を受け、日本人の哲学を重んじ、意匠は「心」と「技術」、この2つがそろわないと成り立たない制作をしています。作品づくりの基礎を形成してくれた修業時代やイタリアでの経験から、「身に着ける人の気持ち、その人らしさを考えて作る」「裏が表であってもいいように、見えないところも手を抜かずに丁寧に作る」を大切にしています。
100年後にアンティークとして後世に残る作品づくりを目指し、生涯尽きることがない表現の探求をしていきたいと思っています。
今後は、不定期で工房の公開日を設けることを考えています。  

【みやざわ・のりみち】 松本市出身。大学進学を機にジュエリー工芸の世界を志す。2018年12月、Raccоntо/ラコントを創業し、代表に就任。

Raccоntо/ラコント