上高地の秋告げる「明神池お船祭り」(松本市)

厳かに雅楽の調べが響く明神池を、龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)の2隻の御船が、水面を滑るように回った=ニコンD5、ED AF VRニッコール80~400ミリ、10月8日午前11時36分

大自然に溶け込み同化した神事

二十四節気の「甘露」を迎えた10月8日、紅葉が始まった松本市安曇の上高地。穗高※神社奥宮で、平安絵巻を連想させる例大祭の「明神池お船祭り」をカメラに収めた。
午前5時50分。車中泊し、人影のない明神池の畔(ほとり)に立った。気温が高く、狙っていた朝靄(あさもや)が水面をはう、幻想的な光景の撮影はできなかった。だが、静まりかえる水面に奥深い針葉樹の森影や天に聳(そび)える明神岳を投影。吸い込まれていくような神域の光彩に思わず手を合わせ祈った。
11時36分。明神池での「御船神事」が始まった。平安朝装束に身を包んだ神官や巫女(みこ)が、舳先(へさき)に想像上の「龍」や水鳥の「鷁(げき)」で飾った2隻の舟に乗り周遊。先行の舟には、宮司、禰宜(ねぎ)、巫女が乗り、後に氏子総代、雅楽(笙(しょう)、篳篥(しちりき)、横笛)が続く。明神池に鳴り響く雅楽の調べ。荘厳で神秘的な光景が浮かび上がった。
穂高光雄宮司が持つ大きな白い御幣の形に、明神岳から前穂高岳に続く雪を纏(まと)った峻峰の山稜(さんりょう)が重なる。江戸時代に奥宮を詣でた安曇野の先覚者「高島章貞伝」(山崎佐喜治著)に載る「卯(う)の花や御岳(みたけ)は雪の白幣(しろにぎて)」の句が脳裏をよぎる。
神聖な明神の大自然に溶け込み同化した「御船神事」が終わると、にわかに上高地の紅葉が沸き立ち、奥穂高岳山頂の「嶺宮(みねみや)」(3190メートル)から雪の季節が降りてくる。
(丸山祥司)

※=はしご高