夏を告げる白無垢姿の「嫁さん」の雪形(小谷村・笹野)あでやかに今も変わらぬ姿

信濃の雪形の最後を飾り、朝日を浴びて「嫁さん」の雪形が輝き、あでやかに浮かび上がる=ニコンD5、ニコンED AF VRニッコール80~400ミリ、7月5日午前4時51分

先人から語り伝えられてきた信濃の伝承雪形は、現在76態を数える。残雪の山肌に現れる雪形絵巻の最後を飾るのは、小谷村大網からさらに奥まった笹野地区から観望する白無垢(むく)姿の「嫁さん」の雪形だ。白馬岳の北方に位置する黒負山(くろふやま)(2070メートル)の北東面に現れる。
6月28日夕方、2度目の撮影下見で訪れると、日本髪に打ち掛け姿が整った「嫁さん」が、流れる雲間にちらっと確認できた。7月5日午前4時51分、快晴。モルゲンロートに染まる「嫁さん」のあでやかな姿が浮かび上がる。カメラのファインダーを通し新鮮な雰囲気が伝わってきた。この朝、脳裏に描いたこだわりの撮影に成功した。
例年この「嫁さん」は、7月下旬から8月初めにかけ整う。雪形撮影と調査研究を続け半世紀になる記者も、1カ月近く早い今シーズンの出現は記憶になく、驚きだ。
笹野の大日方サト子さん(81)は「嫁さんの姿が整うと本格的な夏が訪れます」と話す。嫁いだ時、姑(しゅうとめ)が教えてくれたという。
連載した「雪形絵巻」で、10年前取材した大日方志ずゑさん(当時85)は、生まれた時から笹野に住む。「昔からあの山を女ケ岳と呼んでいた」とも。1899(明治32)年生まれの父親から教わったという。
今も変わらぬ姿で浮かび上がる「嫁さん」の雪形に、世代交代して通り過ぎた時の流れが、重なって見えるような気がした。
(丸山祥司)