【小林千寿・碁縁旅人】#41 私のカタール

凱旋門賞のカタール紹介コーナーで、ヒジャブをかぶる女性と、ヘナタトゥーを施された筆者

今回のサッカーのワールドカップ(W杯)でアジア勢の勢いが素晴らしく、日本も強豪のドイツ、スペインに勝って決勝トーナメントに進出したのは大金星です。開催国のカタールは遠い異国ですが、W杯を通じて急に身近に感じるようになりました。
私はカタールに行ったことはありませんが、パリに住んで囲碁普及をしていた時に運良くカタールがスポンサーの競馬の祭典「凱旋門賞」でVIPルームに招待されました。
その時にカタールの文化紹介のコーナーでヒジャブで髪を覆った美しい女性と記念写真を撮りました。その時にさり気なく「手を出して」と言われ、手を預けるとあっという間にペーストのようなもので模様を描かれました。それは彼女の手にも描かれた「ヘナのタトゥー」だったのです。
以前、スイスのホテルでサウジアラビア人の結婚式の新婦がお祝いの時に描くと説明してくれたことがあったので、その日は気楽に帰宅しました。ところが、それは洗っても10日間ほど消えないものだったのです。
そして翌日、習っていた大人のフランス語のクラスで白人のクラスメートが一様に凍り付く反応にビックリ。ヘナタトゥーは「宗教、アラブ文化」を象徴するもので、それをしている私もそうした宗教、文化を持っているように見られると知らされたのです。国際社会において、それは無知で軽率な行動でした。
間の悪いことに、その2日後に国際的な会合に招待されていました。私はいろいろと考えて右手を大きな包帯で巻いてけがをしたことにし、左手で握手をする許しを得て何とか切り抜けました。
植民地が多かった欧州などには、多国籍のルーツを持つ2世3世の人々が一緒に暮らしています。文化、歴史、習慣が混じるカオスの世界です。
カタールのW杯では、そのカオスが見え隠れし、その上、国際問題も重なり、複雑な思いです。でも選手たちの素晴らしいプレーが心を洗ってくれます。頑張れ!(日本棋院・棋士六段、松本市出身)