「創商見聞 クロスロード」第79弾は、2022年4月、松本市で熱処理木材を製造販売する「モカウッドジャパン」を創業した社長の丸山淳治さんに話を聞いた。薬剤などを使わない「モカ・ウッド」の製造経緯や思いとは―。
信州のカラマツ生かして
【まるやま・じゅんじ】51歳、松本市蟻ケ崎出身、札幌大学外国語学部卒。22年4月モカウッドジャパン創業、代表取締役社長就任。
モカウッドジャパン
松本市波田2009-13 ☎050ー3154ー1081
―環境にやさしい木材を
高校では弓道部の立ち上げに取り組んだり、進学した北海道札幌の大学ではESS(英語研究会)に所属して、道支部長を務めたりもしました。組織づくりや運営に興味があったようです。社会人としては、松本市笹賀にあるシロアリ駆除などを行うテオリアランバーテック社に20年勤務しました。
「家を、より確実に長持ちさせる」という同社創業者のビジョンがあり、害虫駆除だけでなく、断熱工事、家の状態を検査する建物診断から外構資材となる木材の確保まで、幅広い業務に携わり、多くを学びました。
外構で使う木材には長持ちする耐久性が必要で、薬剤を加圧注入する処理を行い、ウッドデッキを作ったり、木材を販売したりしていました。取り組むうちに「薬剤に頼らないノンケミカルな木材を供給する、新しいビジネスモデルを作りたい」との思いが募り、10年ほど研究しました。
県林業総合センター(塩尻市)などから海外の最新情報を紹介してもらう中で、着目したのが「熱処理木材」でした。センターの協力を得ながら独自の研究も重ね、テスト販売も順調でしたが―。
―思いがけぬ創業
22年1月に会社から、独立を勧められました。とても驚きました。大変悩みましたが、この技術で長野県の森を生かしたいという思いから創業を決断しました。周囲から受けた支援の恩も返したかったです。2月に金融機関や松本商工会議所に創業支援策を相談し、3月の決算までに業務を後任に引き継ぎ、4月1日に新事務所を掃除しながら創業という怒涛のスケジュールでした。
―勉強会の縁から
前職時代から、地域の経営者や経営者候補が集う勉強会「松本考動倶楽部」の運営をしています。経営コンサルタントの藤原毅芳さん(神奈川県)を主な講師に迎え、松本商工会館を利用してこれまでに120回行ってきました。
この勉強会が今回の独立にも大きく役立ってくれました。会では、新しいビジネスの知見を勉強しました。藤原先生にも的確なアドバイスをいただき、そこで出会った仲間の応援もうれしかったです。
現在の事務所も人脈の中から、閉業した木工所を紹介されました。加工機やフォークリフトなども好条件で賃貸させてもらっています。勉強会の人脈がなかったら、わずか3カ月での創業は難しかったかもしれません。
一緒にテスト販売をしていた前社の担当者と木材加工のオペレーターの3人で、藤原先生には取締役になってもらい、新会社はスタートしました。
―熱処理木材「モカウッド」とは
熱のみによって木材成分を改質し、腐らず寸法安定性が高い木材です。
木材と水分が結びつく要因にヘミセルロースという木材成分があります。このヘミセルロースを改質することにより木材が水分を持つことができなくなるため、水分変化により起こる腐れや曲がり、反りが発生しにくくなります。
製造工程を簡単に説明すると、県産のカラマツやアカマツをすごく大きな〝圧力スチームレンジ〟に入れるイメージです。まず酸素を完全に脱気し、加熱水蒸気に置き換え酸化(劣化)を抑制します。
さらに180度以上に加熱し、木材の芯まで熱を入れヘミセルロースを改質させます。
既存の処理法では難しかった木材の芯までの処理が可能になったため、品質は均一に。色はコーヒーのような褐色に変わり、木口を塗り直す必要もない。商品名の「モカ」はここに由来します。
カラマツ、アカマツの無垢材を内装だけでなく、外装やウッドデッキ、建具などにも使えます。例えばサウナの内装で使えば、熱伝導率が低いので利用者が熱さを感じにくくなります。
―コロナ禍でのプラス面
社会に大きな影響を与えているコロナ禍ですが、当社にとってはプラス面もありました。コロナ禍前は、工務店や設計事務所に電話すると「電話営業ではなく実物持参」を求められました。わざわざ東京に集まり、会議から懇親会までがセットになっているような、非効率な面も多くありました。
しかし、今は「事務所に来るな」の時代です。全国の設計事務所に電話してサンプルを郵送。定期的にウェブセミナーを開き、質疑応答ができます。
全国の取引先とやりとりして感じるのは、「商品にバックストーリーがあると共感を得やすい」ということです。「信州のあの山で、あの人が伐採した木が、このサンプルに―」。そんな説明が受け入れられ、見積もり依頼につながることもあります。
これまでの木材業界は、販売は商社に委ねることが多かったですが、当社は木材の背景を説明しやすい直販をメインにしています。
テスト販売の経緯もあったので、最初からお得意さまもできて、販売は初年度にしては順調でした。何とか半期を経過し、年を越せました。
―夢はベトナムへ
会社は始まったばかりですが、世界規模の夢を「志」として持ちたいと思っています。現在は本当に小規模ですが、これから生産効率を上げ、売り上げを増やしていけば世界マーケットへの拡大は可能だと考えています。
舞台は、木材研究のため何度か訪れたベトナムです。現在、日本の企業が多く進出し、世界的なサプライチューンの要になりつつあるベトナム。都市化の計画も多く、高額住宅の建築需要も旺盛です。そこに熱処理木材を売り込みたい。
ベトナムには針葉樹がありません。ヨーロッパから高額の熱処理木材がアフリカ経由で輸入されてはいます。日本からの船便にすれば、かなりコストダウンできる可能性があります。
いずれ長野県のカラマツ・アカマツをベトナムに輸出したいという夢を持っています。