「創商見聞 クロスロード」第83弾は、特別編「クロスロード クロスオーバー」として、4月18日に松本商工会議所で開いた「次世代経営者育成塾報告会」を取り上げる。昨年6~10月、全8回24時間にわたり開かれた「次世代経営者育成塾」は、2022年度で3期目を終えた。塾頭を務める経営アドバイザーの瀬畑一茂さん(ATEHAS)と同塾を2期連続で受講した企業4社の代表4人が集い、座談会を行った。
「クロスロード クロスオーバー」。交差点に集い、高め合った様子を紹介する。
考えて答えをつくる
塾を終えて
―瀬畑一茂さん
本日参加された4人は2期、3期を連続して受講された皆さんです。参加のきっかけや受講後の感想を一人ずつお話しください。
―大塚泰裕さん
参加前、店の業績は順調でしたが、日々ただ頑張るだけで、明確な目標がありませんでした。
スタッフの勤務が続かないことや仕事の役割分担をどう明確にするかなどで悩み、経営の基本の勉強をしたかったので参加しました。
始まると、講義についていくのが精いっぱいで、意見を求められても何も考えが出てこない。講義やプレゼンテーション中に飛び交う専門用語を、携帯でこっそり調べることも何度かありました。
これまではケーキの勉強だけでしたが、塾で経営の基礎から、パソコンを使った実践的な分析までできるようになったのは大きな財産です。
最初は「場違いな所にきた」という感覚でしたが、2期目で学んだことを基に、3期目では自分の意見を表明できるようになりたいと考え、継続しました。
スタッフとの関わり方や意見交換する様子を見た妻から「変わったね」と言われ、うれしかったです。
―立石宗一郎さん
会社を継いで1年半くらいで、受講のお話をいただきました。
がむしゃらに目の前の課題をこなしてきた時期を過ぎ、少し落ち着いて「社長って何だろう?」って考え始めた頃です。
先代や先輩社長からは話を聞いていましたが、若い次世代社長の話が聞きたかった。
塾の初回、キックオフの場面で、先輩に当たる1期生の発表を聞きました。内容が衝撃的なほど素晴らしく、「ここには私たちの課題に本気で向き合ってくれる人がいる」と、感じた記憶が鮮明に残っています。
塾はシンプルに楽しかったです。課題を真剣に考えている人たちと意見をぶつけ合うことは、社長になって少なくなっていたので、とても刺激を受けました。個人面談も多くさせてもらいました。
―新井さやかさん
入塾前に塾頭と松本青年会議所の活動でお会いする機会があり、「この人の話をもっと聞きたい」と思ったことが参加のきっかけです。
演習課題ではなく、実際の企業課題をさまざまな立場の参加者が解決に向けて実践的に考える―という取り組みに共感しました。
立石さんと同じように、キックオフでの1期生の発表にもとても感動しました。皆さん真剣で、安心して相談できる人がいることも感じました。
塾生の皆さんに、自社課題を多面的に考えてもらえたのもありがたかったです。現実にはまだ一歩を踏み出せず、実行できていないこともありますが、狭まっていた視野を広げ、行動につなげることもできました。
3期は恩返しの意味も込めて参加し、新たに学ぶ塾生にどこまで伝えて解決策を導き出すか、支援面でも学ぶ機会となりました。
―草間淳哉さん
1期目から入りたいなと思っていたのですが、大学で講義の仕事があり、時間的に調整がつかず、参加できませんでした。
コロナ禍でいろいろあり、自分を顧みた際、経営者として「守りに入っている自分」に気づかされました。
「何とか現状を変えたい」と大学に打診し、講義の時間割を調整してもらえました。
この判断は、自分の中でとても大きな意味に感じ、「何とかしたいと動けば、何とかなる」という、創業時の心境を取り戻すことができ、良かったです。
ただ、参加する決断をしたことで、目的を達成した感覚になっていたかもしれません。 塾の最初に、1期目の先輩から「本気を出してない」と指摘されました。
その後は積極的に関わり、授業での討論、アイデア出しなどを実行。自分の仕事のさまざまなシーンに、学んだことを反映できたと思います。
塾に参加し、それぞれの会社にはさまざまな課題があり、解決に向けぶつかっている様子が、改めて分かりました。3期目のメンバーと課題に向き合い、経営の「すでにある答え」ではなく、「考えて答えをつくる」力が付いたとも思います。
自分への期待
― 瀬畑さん
塾での学びを経て、これからの自分への期待は何ですか?
―立石さん
より経営自体が楽しくなってきたと感じます。以前は「社長ってこうあるべきだ」みたいな考えが強かったのですが、塾以降は自分自身にはめていた枠が外れてきたと感じます。実際に問題が生じた時にも、スピード感をもってアプローチできるようになってきました。
会社の理念に基づいて経営を実践し、従業員と共に企業価値を高めていくことに幸せを感じています。塾で次世代の経営者50人くらいと出会いました。塾で学んだ「共通言語」で話せる仲間ですので、地域の新しい情報発信や業界の変化に対応できる、力のあるネットワークになったらいいと考えています。
―大塚さん
自分はIターンで、好きなことを好きな場所で創業したのに、気づいたら課題もストレスもたまり、うまくいかない感じに陥っていました。
でも塾で、自分たちの考えがしっかりしていればやり方はいくらでもある―ということを学びました。自分たちの会社がこれからも楽しくやっていくことを、期待して見守ってください。
瀬畑さんは「これからは、次世代型の経営を考えることが必用」と話されていました。塾には、今は経営者じゃなくても、少しでも経営に興味のある人にも参加してほしいとも感じました。
―草間さん
「社長はこうするべきだ。ああするべきではない」などの思いを固め過ぎ、振り返ってみると自分の人生の選択肢を自分で削っていたかもしれません。
塾は、フリースタイルな自分らしい経営をもう一度探す契機になりました。今、自分に経営する力が付いて物事が進み始め、思い描く形ができ始めていると思います。
塾での経験を、これからの長い経営者人生の糧としてやっていきたいです。
―新井さん
サラリーマンだった時の方が企業理念や志に向かって自由に走り回っていたかもしれません。実際、経営者になり、物事を決断する立場になると、これほど慎重になるのかと自分に驚いています。
課題の先に楽しみがあるのに、伴う痛みや慣習で進めない。それはきっと業界や地域も同じで、このモヤモヤの先を形にしたいと感じています。
コロナ禍で塾生同士の交流は限られていましたが、懇親会では講義で話せなかったことも議論しました。それも、より強いつながりになりましたね。尊敬できる仲間ばかりで、今後もこの輪を広げていきたいと思います。