満開のニリンソウと「鶏」の雪形(白馬村神城)

残雪模様の「鶏」の雪形と可憐(かれん)なニリンソウの白い共演。白馬の爽やかな季節の表情を際立たせる=ニコンD3S、ニコンEDAFVRニッコール80-400ミリ

季節の移ろい告げる白い共演

晩春から初夏への訪れを告げる白く大きな「鶏(尾長鶏)」の雪形。白馬村神城で5月上旬、満開のニリンソウとの共演に出合った。
鶏のモニュメントは、白馬乗鞍岳(2469メートル)の南面に右側を向いた格好で現れる。観望の最適季は例年5月中旬から下旬で、これまではニリンソウの花季とタイミングが合わなかった。
そんな中、山沿いの畑で、高い土手の上部を彩るニリンソウの群落に目が留まった。少し離れた地面に腹ばいになり、草の香りに包まれながら目線を通すと、ニリンソウの花の上に白い雪形の「鶏」が輝いている。長年、脳裏に描いてきた“白い共演”の構図だ。
この雪形を眺めていると、安曇野に暮らした田淵行男さん(1905~89年)との雪形談議を思い出す。著書「山の紋章雪形」の出版前、田淵さんは「鶏よりカモシカに似ている」とかなりこだわっていた。先人たちは深山のカモシカではなく、農事暦として尊崇の念を込め、身近で大切な存在の「鶏」に見立てて伝承してきた。自然に順応した素朴で鋭い観察眼が伝わってくる。
「コケコッコー」。突然、おんどりが鳴いた気がした。「ずっと離れない」「友情」などの花言葉があるニリンソウを通して眺める雪形が、鶏を飼っていた懐かしい少年時代の記憶の旅へといざなった。
(丸山祥司)