[創商見聞] No.27 植垣 健太郎 (松本マフィン)

思わず笑顔になる菓子作り目指して

―創業のきっかけは
それまで勤めていた仕事を辞め、何もしていない時期がありました。そのとき、自分で何か始めようと考えたんです。しかし資金はない。それならば、まずは車を使った移動営業を始めようと。
妻(洋さん)も私も以前からお菓子やパンを作ることが好きでした。以前、友人にマフィンを作ってあげたところ、「おいしい。どこで売っているの」と聞かれ、とても喜ばれたことを思い出したんです。マフィンなら売れるかもしれないと決めました。
松本に移り住み、創業したのは2009年です。大学生のとき、2年ほど暮らしたことがありました。空気や水がきれいで開けた印象で、よそから来た人を受け入れてくれるという雰囲気もあり、松本は気に入っていました。
 当初は現在の店舗の2階の空き室を借りて、オーブンと電子レンジを置き、そこでマフィンやクッキーなどを作っては車に積み込んで、アルプス公園や信州スカイパークなどで販売していました。お客さまから「町中でも買いたい」という声をいただき、その部屋に机を置いて、商品を並べ、販売するようにしたんですが、狭くてお客さまには不便をおかけしていました。妊婦さんや子ども連れの方も多かったですからね。そこで、11年に1階も借りて、店舗としてオープンさせました。
―口コミで評判が広がっていった
私たちの作るお菓子は、派手さはなく、素朴で地味な印象だと思います。普段の生活の中で子どもさんたちのおやつとして食べてもらえればいいな、そんな気持ちで作っています。
また、余計なものは入れないようにしたいと、できるだけ信州産や国産にこだわり、安心な素材を使うようにしています。卵は松本産、小麦粉は県産で、砂糖は国産のサトウキビから作られミネラル豊富で風味のいい「きび砂糖」を使っています。着色料や合成香料も使いません。膨張材はアルミ化合物不使用のものを選んでいます。
―商工会議所の支援は
自営は初めてだったので、全く何もわかりませんでした。そこで、商工会議所に出向き、会員ではないけれども相談に乗ってほしいと尋ねたところ「大丈夫」と言われて。「何歳くらいの、どんな人に売りたいのか」といろいろ聞かれていくうちに、自分たちの中でも漠然としていたものが明確になっていきました。
マフィンに使うリンゴやブルーベリーなど果物は無農薬のものを使いたかったので、その生産者の方を紹介してもらいました。そのおかげで商売として始めることができたと思っています。
 14年に、商工会議所の小規模事業者持続化補助金を活用し、クッキーの生地を均等に伸ばす機械を導入。パッケージも一新しました。デザインしてくれたのは、大阪出身で松本市在住のイラストレーターの山本香織さんです。お客さまとしてお店に来てくれていたご縁で、オリジナルキャラクターも作成してもらいました。それにより独自色が出せ、ギフトとしての需要も増えました。
松本城を模したクッキーを作ったときも商工会議所に相談したところ、松本城で販売したらどうかとアイデアをいただき、管理事務所に話をしてくださり売店に置いてもらえるようになりました。その後、市内のホテルとも契約することができ、さまざまな面で助けられ、商工会議所は私たちにとってとても頼りになる存在です。
―今後の事業展開は
創業当時から、とにかく明日も、来月も、来年も頑張って続けていこうという気持ちでここまでやってきました。最初は気軽に始めましたが、お菓子作りは奥が深いことを実感しています。お客さまにもっともっと喜ばれるお菓子を作るために日々、試行錯誤です。これからも、私たちのお菓子を食べてくれた人が笑顔になる、そういうお菓子作りを目指していきます。

【うえがき・けんたろう】 福岡県出身。49歳。山岳旅行会社、環境省の仕事をした後、大学生活を過ごした松本に移住し、焼き菓子の移動販売を始める。妻と二人で製造・販売を手掛ける。11年、店舗を開設。現在も、週末には県内のイベントで出張販売を行っている。