2020.11.19 日本地域情報コンテンツ大賞・タブロイド部門で2年連続優秀賞

[創商見聞] No.10 草間 民安 (日本料理 草創庵代表) × 小口 毅 (湯々庵 枇杷の湯代表取締役)

 ―枇杷の湯で草創庵が創業した経緯は
 草間 浅間温泉のホテルで料理長、総料理長として22年間働いてきました。「いずれは自分の思い描く純日本料理の店を開きたい」と、55歳で退職。場所を探し始めましたが2年間見つかりませんでした。そんな時に友人から枇杷の湯さんを紹介してもらいました。
 実際に現場を見たら、大正時代の歴史ある建物や、風情ある庭園など、私の持つコンセプトとすべて合致。先代の社長にお話をし、快諾していただきました。
 小口 私は30歳の時に勤めていた会社を辞め、実家に戻りました。すでに父が他界していたこともあり、早い継承になりました。20年前に旅館業から日帰り温泉施設へ方向転換し、これまでに食事処(どころ)をやろうと考えたこともありましたが、費用のこともあり断念。草間さんのお話は改修費も持っていただけるということで、喜んでお貸ししました。
 ―事業で苦労したことは
 草間 料理はプロでも経営は素人。創業の際も分からないことだらけのため、まず商工会議所へ相談に行きました。店のコンセプト作りに始まり、席の稼働率や年間売り上げ目標などの計画書の作成、銀行からの借り入れや集客方法など、さまざまな指導を受けました。
 またデザイナーや設計士など、各分野の専門家も紹介してくれて、私の店作りへの思いを、実現させることができました。特に内装にはこだわり、懐石料理が引き立つようスポットライトを付けたり、料理の邪魔にならないよう壁の色や、ふすまのデザインを落ち着いたものにしたり。自分だけで手配していたらなかなかできなかったと思います。 
 創業後も、お客さまからの要望で、座卓を椅子席に総取り替えして費用が大幅に膨らんだり、日本料理に関する接客が不十分で急きょ研修を行ったりと、予想外の出来事が起こりました。その都度対処して、今日に至っています。
 小口 実家に戻ってきた当時は、業績がかなり悪化していました。「何か対策を打たねば」と思いましたが、いきなりお客さまを増やすのは難しい。そこで、まず支出を減らすことを考えました。一番コストがかかる灯油代を減らそうと、電気給湯器に替えたのですが、想定したような削減効果が得られず、失敗に終わりました。このため、灯油による給湯に戻し、今は、値段を聞きながら2社から灯油を購入し、コストの削減に努めています。
 ―今後の事業展開について
 草間 何か目新しいことをするより、日本料理をきちんと継承することが自分の役目だと思っています。初めは手広くやろうとも思いましたがその分、お客さまに目が行き届かなくなるので、むしろ縮小しました。枇杷の湯さんという抜群の知名度の中でやらせてもらっているので、県内外からもお客さまが来ますし、リピーターも増えています。
 単価的には安くないですが、お出しする料理には自信を持っています。今後も記念日やお祝い事、結納や身内だけの結婚式など、ニーズに応じながら特別な日に利用してもらえたらうれしいですね。
 小口 日帰り温泉にリニューアルしてから今年でちょうど20年になります。設備も老朽化するので、修繕をしながらお客さまに満足していただけるサービスを提供していきたいと思っています。また今年は20周年を記念したイベントなども考えています。
 集客についてはなかなか厳しいですが、幸いうちは口コミでいらっしゃるお客さまも多いです。築130年の建築物や、樹齢400年の松など、歴史や雰囲気に興味を持ってもらうことで、他の施設と差別化していきたいです。
 草創庵さんができてからは「食事もできます」と宣伝ができ、お客さまの滞在の幅も広がったので、いい相乗効果になっています。
 ―浅間温泉の今後について
 草間 松本空港の国際化が進むことで、ますます海外からの観光客が増えると思います。浅間温泉は空港からも駅からもそう遠くない。最高の立地です。ただ、観光客を呼ぶには何か目玉がなければなりません。新しいものを開発するのもいいですが、眠っている資源を掘り起こして新たな魅力を加えられれば、浅間温泉ならではの街になっていくでしょう。
 将来的には「観光」「食」「温泉」の街になればと思います。目玉商品を作って観光の街、統一メニューを作って食の街、そして温泉の街。その3本柱ができることを期待しています。
 小口 浅間温泉の魅力がどんどん下降していると、危機感を持っています。各旅館や日帰り温泉施設には、それぞれお客さまが来ますが、温泉街に人が少ない。
 そこで、地域の人たちで何かできないかと、月に1回、「たびおこし会」という意見交換の場を設けています。当初は旅館業の若手4人でスタートし、観光客向けに街歩きの企画を考えるなどしましたが、浸透しませんでした。同業者だけだと考えが偏ってしまい、実際のニーズに気付きにくいんですね。それからは、飲食店や、旅館組合に入っていない旅館の方にも入会してもらい、現在のメンバーは約30人です。
 今、廃業した旅館の跡地の広場でイベントができないかと、実際に話し合うなどしています。今後は、さまざまな視点で街を捉え、みんなの意見を取り入れながら、活気ある浅間温泉街を取り戻していきたいです。

【おぐち たけし】 湯々庵 枇杷の湯代表取締役。松本市出身、36歳。大学を卒業後、県内の電子部品製造会社に就職。8年間の勤務ののち、創業400年の歴史を持つ家業の温泉施設を継ぐため退社。30歳で実家に入る。初代から数え17代目に当たる。平成27年から現職。

【くさま たみやす】 日本料理 草創庵代表。松本市(旧四賀村)出身、61歳。高校を卒業後、市内の旅館で修業。その後、浅間温泉のホテルで22年間勤務した。55歳で退職し、2年後の平成24年8月に「草創庵」を創業。松本調理師製菓師専門学校で日本料理の講師も務める。