2020.11.19 日本地域情報コンテンツ大賞・タブロイド部門で2年連続優秀賞

[創商見聞] No.23 酒井 慶太郎 (酒井産業 社長)

松本地域で木育・木質化広めたい

―今年の4月から社長に就任
 話が出てから短期間での事業承継になりました。事業承継税制などを考えれば数年前から計画すればよかったんでしょうけど「少しでも若いうちに責任ある立場に」という前社長の思いから、このタイミングになりました。
引き継いでまず苦労したのは時間の配分。想像以上に社長業が増えたので、ひと月の仕事の組み方を変えなければならない。少しずつサイクルができてきたところです。
 承継にあたり、あらためて経営理念の一つに掲げたのが「仕入れ先は財産である」ということ。26歳で家業に入ったとき、仕入れ先の生産者の方から「親父だったらついていくが、お前にはついていかない」と言われました。当時、東京帰りで生意気な発言ばかりしていたんですね。時代によって販売先は変わっても、仕入れ先は変わりません。この信頼関係の大切さは若い社員たちにも伝えていきたいです。
―いち早く「木育」に取り組んだ
 10年以上前からです。林野庁による、国産木材の利用促進運動に声をかけてもらったことがきっかけでした。その時メンバーだった大学の先生の調査で、若者が杉などの木の匂いを「くさい」と否定的にとらえる傾向があることが分かりました。幼少期に木と触れ合う機会が少なかったからではと、危機感を覚えました。
そこから、木のおもちゃの試作品を100個近く作りました。特に人気が出たのが自分で箸を作れるキットと板積木です。板積木は、サイズがすべて同じ長方形であることが特徴で、形が単純ゆえに子どもたちの創造力が養われます。集中力や空間認識能力の向上も見込まれ、手に木の良い香りも移るので木育には最適です。
 最近は楽器を開発し、木と木をたたいて音を出すカスタネットのようなものを作りました。幼児が持ちやすい卵形にし、五感が刺激されるよう音楽や振りを付け、全国どこの施設でも楽しんでもらおうと遊び方を収録したDVDも製作中です。昨年試作品の楽器を発表して好評だったので、今年も10月に行われる「木育フェスティバル イン 信州しおじり」で皆さんに体験してもらいたいと思っています。
―全国で木製の大型遊具も手掛ける
 2012年、初めて遊具の製作を行い、長野市の大手自動車ディーラーのキッズスペースに設置しました。それまで手のひらサイズのおもちゃしか作ったことがなく、先方からも「本当にできるのか」と言われました。大きな挑戦でした。
実はその数年前、商工会議所からの勧めで関東経済産業局の「地域資源活用新事業展開支援事業」という助成金事業に応募しました。事前にレクチャーを受け、前社長たちが埼玉までプレゼンテーションに行きました。4年間で2千万円という補助金をいただき、これを活用して原寸大の遊具の試作品を作ったんです。原寸大なので実際のサイズやデザイン、強度を確認してもらえましたし、大型遊具を作れることの証明にもなりました。初めは社内からも無謀だという声がありましたが、この成功をきっかけに雰囲気が変わりましたね。「自分たちでも大型製品が作れるんだ」と。補助金がなければ撤退していた可能性もあるので、会社の転機になりました。
―今後の事業展開は
 自然のぬくもりを感じられるよう、木育・木質化を広めていきたいです。インターネットなどのツールは便利ですが、技術が進歩した分、人間力は退化したと思います。それを取り戻す受け皿になるのが自然です。
まずは、地場産業である木曽漆器で成長した当社ならではの漆器製品、木製の遊具や家具、おもちゃなど、さまざまな場面で木と触れ合う機会を増やしたいです。木製品は予算的になかなか手が届かないイメージもあるかもしれませんが、6月から始まる県の「子どもの居場所木質空間整備事業」などの補助金も活用できるので、一度相談してみてください。
そして、今後は塩尻はもちろんのこと、松本地域の木育・木質化にも力を注いでいきたいです。子育て関連の施設などで自然を通して子どもたちの健全な成長の手伝いができるよう、木育への意識をさらに高めていきたいと思います。

【さかい・けいたろう】 酒井産業株式会社代表取締役社長。塩尻市出身。49歳。大学卒業後、都内の宝石販売会社を経て、1995年に酒井産業に入社。以後、製品開発やルート営業、新規事業開拓などを行い、4月から祖父、父、叔父と引き継がれる同社の社長に就任。木育インストラクター、自然体験活動指導者の資格を生かし、木育の普及にも努める。