[創商見聞] No.49 三吉 雅子 古田 俊(信州ゆめクジラ農園)

―農業をやる覚悟(三吉)
  2009年、おいしい野菜を作りたくて東京から安曇野市に移住し、今の土地に畑を借りて農業を始めました。
 カラーニンジンや、ビーツなど西洋野菜に興味を持ち、独学で作って、地元の直売所の棚に上げることから始めました。
 しかし売れません。まだ一般家庭ではなじみの薄かった野菜。食べ方が分からなければ売れない、でも種をまいてしまえば、売るしかなかったです。
―赤い水菜の出会い(三吉)
 どうしたらよいか悩んでいた時、当時レストランシェフだった古田さんから「この前買った、葉脈の軸が赤い水菜がまたほしい」と声が掛かりました。
 古田さんと何度か話すうちに「私が育てる野菜はシェフが使う野菜なんだ」と認識。シェフたちのために種をまき、育て、シェフたちに売るという方針―。
「ゆめクジラ」の始まりです。何度も古田さんと話をして、力を貸してもらうこととなり、2018年、農業者団体を立ち上げました。
―100品目作る(三吉)
 当初の大きな目標は、古田さんから提案された「西洋野菜100品目を作る」でした。
 農作業の体力、人手や畑の確保など、課題は山積。二人の認識のギャップを埋めることから始めなくてはなりませんでした。
  難易度の高い目標に対して、古田さんからは「人の力、人の協力で前に進める。野菜1品目だけ作ってもらうお願いをして、20人に声を掛ければ20品目。その後3品目お願いすれば60品目。足りない分を自分たちで補って作れば」と説得されました。
 簡単に言ってくれるな―と思いながらも、つてをたどって農家さんに声を掛け、懸命に説明して一緒に栽培してくれる方々を探していきました。
人に声を掛けるのは時間も労力も必要だし、「作ったことない」「商品の出し方(袋詰め)がわからない」と、断られることも多かったです。
 それでも「栽培方法は一緒に覚えましょう」「ある程度量産してくれれば袋詰めをなくしてまとめて買い取ります」など、生産者さんの声を元に、生産や出荷の方法を工夫。なんとか参加者を増やしていきました。
協力してくれた生産者さんは大半が70代です。皆さん、新しい試みながらも心に余裕があるようで、笑顔が多く、初年度の立ち上がりで苦労していた自分たちはずいぶん励まされました。
  おかげで、さらに農業に力を注ごうと高揚した気持ちになったことを覚えています。今では18人の生産者さんと約130種類の野菜を栽培しています。
―営業も手探りでしたか(古田)
 最初は、ひたすらインターネットのグルメサイトをチェックして、波長が合いそうなレストランに目星を付けました。例えば「今回は東京都の〇〇区」と計画したら、前日までに候補をピックアップ。当日はランチタイム終わりから次の仕込みまでを「営業の勝負時」とみて、飛び込み営業を繰り返しました。
 なかなかうまくいかず、「20軒ほど連続で断られ、へこんで農場で遠くを見つめながらたたずんでいた古田さんもいた」(三吉)。
 それでも「ゆめクジラ」のコンセプトを理解してもらい、3年間で40軒、千葉県から広島県まで取引レストランを開拓しました。
―流通の構築でさらなる展望を(古田)
 ここまでの1、2年は野菜の「目利き」になるための修業でした。栽培スキル、野菜の選び方、飲食店への提案の仕方などなど。
 現在、取引先への提供は3ランク(部門)あります。Sランクはホテル向け、A・Bランクは仲卸向け、その他を「おまかせ野菜BOX」で一般のレストラン向けに販売し、畑で取れたものはすべて現金化できるようにしています。
 「おまかせ野菜BOX」は7200円(10種類前後・100サイズ・不定期・送料込み)。これまでの積み重ねで、リピート率、評価、単価などから主力商品も分かってきました。
 これからはやはりSランクに力を入れていきたいです。Sランクは指定野菜。例えばカラーニンジンだと色もサイズ、形状もそろえた特上を出荷しています。手間はかかりますが、おまかせBOXの数倍以上の値になる時もあります。
  昨年から東京など都市部のホテルへも出荷。量がまとまり、単価も高く、同じホテルグループ内での販売にもつながっています。
 県内では軽井沢、白馬などリゾート地のホテルに営業したところ、高品質との評価を得て、引き合いが増えました。今後も積極的に県内マーケットにアプローチしていきたいです。
 これからは珍しい野菜に加え、一般的な野菜も商品に加えたいと考えています。
 今は、ニンジンやジャガイモを栽培中。秋口の出荷に向け、農地、作業、人員などさまざまな工程を整理しています。
 さらに、物流費が固定化できるようなルート配送の合理化、「産地リレー」ができるウェブでの生産管理システムなどさまざまな構想も持っています。
コロナウイルスの影響で業界も厳しいですが、松本商工会議所や安曇野市商工会、長野県に支援してもらい補助金の申請などを進めています。また団体から法人化できるよう準備もしています。
―最後に(三吉)
 コロナ禍で、レストラン向け販売が難しくなった経緯の中で、個人向け販売も行いました。直接ユーザーさんの声も聞けて、収穫季節のこと、農薬のことなど、改めて野菜の大切さを考えました。
 当たり前ですが、自分たちは買ってもらえる野菜を作らなければ生きていけない。買う人から、どんなものが欲しいかきちんと聞き取れば、農家はどんどん変わっていきます。
 私たちからも、野菜を大事に育てる背景をもっとお知らせして、お客さんも納得して食べてもらえるよう、努力していきたいです。

インスタグラムでも話題のゆめクジラの野菜

【みよし・まさこ】(右) 47歳、北海道函館市出身。2018年1月、信州ゆめクジラ農園を開業、代表に
【ふるた・すぐる】 43歳 千葉県長生郡出身。日本野菜ソムリエ協会認定野菜ソムリエ

「小さなレストラン」専門野菜農家    信州ゆめクジラ農園 

安曇野市堀金三田3244-2                      ☎0263‐75‐3382