新雪まとい浮かび上がる光彩
春の訪れとともに小屋開け作業が急ピッチで進む北アルプス穂高連峰涸沢カール。
19日朝、2日間続いた猛吹雪がやんだ。標高2300メートルの涸沢ヒュッテから「涸沢槍」「涸沢のコル」方向を仰ぐと、「獅子岩」が1メートルを超える新雪をまとい、“白獅子”姿の雪形となって浮かび上がった。
左下を向き、少し開いた口に白い歯がのぞく。鼻や小さな耳、大きな黒い左目…。真冬に逆戻りした穂高連峰に、白獅子が本格的な春を呼んでいるかのように映る。
この光景は、登山シーズンが始まってから涸沢を訪れるほとんどの登山者が目にすることはない。めったには見られない光彩だ。黒ずんだ岩肌の獅子岩。「どこから見たら獅子の形に見えるの」と戸惑う登山者も少なくない。
「北穂高岳への南稜(りょう)の登山道から俯瞰(ふかん)すると、座って涸沢カールを見ている獅子の姿がリアルに見えます」。穂高連峰を半世紀にわたって見てきた涸沢ヒュッテの山口孝社長(73)はそう話す。涸沢のベースキャンプから滝谷の岩場へ通った先人たちが命名したのだろうか?ルーツは分からない。
涸沢から愛(め)でることができる癒やしの岩は数多い。北穂高岳東稜の「ゴジラの背」、涸沢のコルの「亀岩」、前穂高岳北尾根6峰の「狸岩」、8峰の「聖母マリア像」などの造形が、登山者の目を楽しませてくれる。(丸山祥司)