[創商見聞] No.59 一橋 正則 (にこにこハート)

―バイクレーサー
 北海道出身です。北海道の専門学校を卒業して、1989年に神奈川県内の精密機械メーカーに就職し、配属先が池田町にある工場でした。
 精密機械の平面研削盤の設計などをしながら、学生時代から夢中になっていたアマチュアのバイクレーサーをしていました。当時の頭の中は、本当にバイクのことだけでした。
 レースはお金がかかり、やりくりは大変でしたけれど、日本海間瀬サーキット(新潟県)でのアマチュア大会に何度も参加し、結果も良かったです。
 漠然とですが「将来は独立」と考えていました。入社後、バブル崩壊などで景気が悪化し、会社でも希望退職を募る事態になりました。
 そんな時、レース活動でお世話になっていた車輛鈑金会社の社長さんから「これから何をやるにしても営業の一つや二つできないとやっていけないよ」というアドバイスを受けました。そこで会社を辞め、保険会社の営業マンをしながらアマチュアレーサーを続けました。
 26歳の時、国内最高峰の鈴鹿4時間耐久レースに出場することができました。
 結果はマシントラブルで、予選落ち。年齢的にも継続は難しかったです。「やりきった」と感じ、独立へと道を進めました。
 東京で、車体を塗膜で保護するコーティング技術を勉強し、98年、大町市で開業しました。
―食べられないスタート
 正直、見通しが甘かったです。宣伝すればお客さんは来ると思っていましたが、全く来ない。1、2年は食べていけず、冬場のJRの雪かきや道路の凍結防止剤散布などのアルバイトをいくつも掛け持ち、何とかしのぎました。子どもも生まれたばかりで本当に大変でした。
 出身地の北海道室蘭市は雪があまり降らない地域で、こちらに引っ越して初めて雪かきをしたんです。若く、体力もあったので、コンビニの深夜店員も続けました。
 「営業の一つや二つできないと駄目」という鈑金会社社長の言葉は、今も「人生のアドバイス」です。営業のためディーラーさんを回り、個人のお宅を回り、チラシを手配りするなど、努力を重ね、開業3年目くらいから仕事が増え、気づいたらアルバイトは卒業していました。 食べれらなかった理由を振り返れば、私の「腕」もあったと思います。作業段取りが悪く仕事が深夜まで及ぶことはしばしば。価格設定も悪かったです。
勇気を出して、値上げを何度か行い、労力に応じた対価を得られるようにしていきました。
 営業に力を入れて良かったことは知り合いが増えたことです。ラーメン店「凌駕」の赤羽厚基社長からフランチャイズの話をいただき、2009年、安曇野市豊科にNinja店を開業しました。初年度はコーティング部門を上回る業績でした。
 コーティング部門は、1、8月には決まって売り上げが落ち、通年での安定感はあまりありません。飲食部門はコーティング部門ほど浮き沈みは少ないのですが、人材確保など別の課題があります。
―コロナ禍と大町商工会議所
 開業当初、記帳代行などをお願いしたところから商工会議所とのお付き合いが始まりました。以来、機会あるたび、幾度となく相談させてもらっています。特に昨年からは、コロナ禍で車輛、飲食の2本柱にも不安要素が強まりました。そんな中、商工会議所へ新事業のアイデアの塊だけ持って行って、助言を受けながら実行に向けて深く相談させてもらいました。
 ちょうど助成金の募集期に重なり、県の「飲食・サービス業等新型コロナウイルス対策応援事業」を申請。採択され、補助金を受けて新事業を立ち上げることができました。
―新事業の買い物代行
 悲しいことに、大町市の人口は過去10年で、3万人から2万6000人へと4000人も減りました。同地域のマーケット縮小は本当につらいです。
 「過疎化」「高齢化」は、イコール「買い物弱者の増加」につながり、大町エリアの深刻な課題でもあります。
 人が減るマイナス要因の中でも、新しい需要は生まれているのではないかー。
 そんな思いから、今年2月、生活に必要な物を電話1本で自宅まで配送するお買い物代行業務「にこにこハート」を立ち上げました。高齢者だけでなく、車の運転ができない人や介護・子育てに忙しい人にも使っていただけます。
 食料品・日用品を対象に、代行料金は1回当たり1500円+買い物実費。立ち上げは緩やかなスタートですが、利用者からは「助かっている」と好評で、そんなに焦っていません。
 受注件数を増やすため、これからはクリーニング店回りや灯油買い出しなどにも範囲を広げ、利用者の自宅に伺って要望を受ける「御用聞き」などにも取り組み、最終的には営業の3本目の柱を目指します。
 若いころ、生活は全てレースのためでした。大町に移住して32年。生まれ育った北海道より、信州での生活が長くなりました。若いころに僕を助けてくれたのは大町の皆さんです。これからは、日々の仕事を通して、大町に恩返ししたいと思っています。 

 【いちはし・まさのり】 52歳、北海道室蘭市出身。日本工学院北海道専門学校メカトロニクス学科卒。アマチュアバイクレーサーなどを経て1998年グリフォン開業。

株式会社グリフォン

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