新滝の洞窟にできた自然の造形“氷柱観音”(王滝村)

厳寒が創りだした芸術作品の氷筍。洞窟内は自然美術館さながらだ=ニコンD5、ニコンED AF-S ニッコール28~70ミリ、2月17日午後3時15分

光彩に浮かび上がる厳寒の芸術

王滝村の御嶽山麓三合目半。今月17日午後、氷瀑と化した新滝にある薄暗い洞窟(どうくつ)内で地面(岩盤)から立ち伸びる神秘的で不思議な光彩の氷柱と出合った。
「観音様だ」。洞窟の入り口から差し込むわずかな光を集め、エメラルドグリーンに浮かび上がる観世音菩薩を連想させる群像に思わず手を合わせた。
この氷柱は、氷筍(ひょうじゅん)と呼ぶ。氷点下4度前後で発生するといわれ、天井の岩盤の割れ目から染み出し落ちた水滴が瞬時に凍り、筍(たけのこ)状に凍ったものだ。最も大きなサイズで高さ約61センチ、直径約10センチ。大小98本あった。撮影は、ストロボは使わず厳寒の芸術作品である氷柱の自然の光彩にこだわった。
北京冬季五輪の今年、この氷筍を前にカメラを構えていると、取材で連日、競技会場を駆け回った1998年2月の長野五輪を思い出した。清水宏保選手が金メダルに輝いたスピードスケート会場のエムウェーブ。当時話題となった世界トップレベルの高速リンクづくりが脳裏をよぎった。
結晶が小さく方向も不均一の普通の氷より、結晶が大きい単結晶の氷筍を輪切りにしてリンクに張り付けることで、より滑りがよくなる「氷筍リンク」。長野五輪の本番には間に合わなかったが、その秋には氷筍リンクが実現し、次々と新記録が生まれた。新滝で出合った氷筍が、懐かしい記憶をよみがえらせた。
(丸山祥司)