林内に芸術美を際立たせる「雪茸」(北アルプス・上高地)

木立の影が映える林内に、ひっそりとたたずむように現れた「雪茸」=ニコンD5、ニコンED AF―S ニッコール28~70ミリ、3月7日午後2時55分

風の通り道に不思議なオブジェ

3月7日午後、大正池から冬期閉鎖中の上高地トンネルに向かって歩く。西へ傾いた太陽の斜光線を浴びて木立の影が雪上に描く美しい「五線譜模様」に見とれていると、奇妙で不思議な物体の造形が現れた。
風の通り道にできた、キノコを連想させる雪のオブジェ。「雪茸(きのこ)だ!」。その形状から思わず、そう名付けた。
高さは約8センチ。横幅約5センチ、軸の部分は1センチほど。自然の造形、それとも人工物?首をひねりながらも、一瞬にして「雪茸」のとりこになった。雪上の木々の影模様を、遠近感を意識して構図を決めて撮影。静寂な林にシャッター音が鳴り響いた。
記者にとって、雪の造形は大切な撮影モチーフの一つ。芸術美を際立たせた「雪茸」との初めての出合いは衝撃的かつ新鮮だった。眼前に突然訪れた光景に心が揺さぶられた。
雪の造形といえば、強風が造る「シュカブラ(風紋、風雪紋)」やロールケーキ状の「雪まくり」が一般的。「雪茸」は恐らく、適度の強風、気温、湿度などの自然条件が全てそろった時にしか見られないだろう。その後、強風の美ケ原高原でも、似たような現象を確認した。
撮影人生が半世紀を超えた記者に、悠久の大自然はまた一つ、新たな感動と出合いをプレゼントしてくれた。
(丸山祥司)