【野遊びのススメ】#32 野生動物のふん探し

痕跡から種類や生態探る

私たちの身近にはたくさんの野生動物が生息しているが、ほ乳類は夜に活動するものが多く、直接観察することは難しい。だが、痕跡に着目すると種類や生態、暮らしぶりをうかがい知ることができる。彼らの“落とし物”であるふんを探しに出かけてみた。

足元に注目 夏休みの自由研究にも

記者がふんの観察をしてみようと思ったきっかけは、昨年取材した大町市の八坂中2年生(当時)女子3人の取り組みだ。通学路付近に出没する動物のふんを片付けながら種類や分布を調べ、地域の獣害対策にも役立てたいというもの。道端のふんを探して観察、ほぐして内容物を確認して記録。なんともシュールな光景だが、とても楽しそうな様子で興味をそそられた。
彼女たちに見分け方などを教えた、野生動物に詳しく猟師でもある市立大町山岳博物館学芸員の藤田達也さん(33)と、同市八坂地区の野山を訪れた。
獣道近くの舗装路の端に目をこらすと、早速、実のような物を含んだふんを発見。藤田さんによると、節に分かれて連なる「モスラ(架空の怪獣)」の幼虫に似ている形状のふんは、ほぼニホンザルのものだという。ぶつぶつしたものは消化されなかったサクラの実とみられる。
三原にある「野菜団地」で見つけた同じようなふんからは、昆虫の足や羽なども確認でき、藤田さんは「実も虫も食べるからテンかハクビシンか。サルの可能性も高い」。形状や大きさ、生態の特徴を知っておくと判別しやすそうだ。
俵状で、黒いころころとした形状はニホンジカ。野菜団地の舗装路で見つけた。畑に面した山に少し入ると、一面におびただしい数のシカふんが。「これを見た時には絶句しました」と藤田さん。
畑のマルチシートの上には群れが通ったとみられる足跡も。温暖化、天敵や狩猟者の減少などで同市周辺にも進入して数が増え、農作物や生態系に深刻な影響を及ぼしている現状も目の当たりにした。
一定範囲の縄張りを持つニホンカモシカ(ウシ科)のふんは、ニホンジカと似ているが少し細長い。決定的な違いは、トイレのような決まった場所でする「溜(た)めふん」だ。野生動物は所構わずのイメージだったので驚いた。タヌキも溜めふんの習性がある。
大町の里山の舗装路で観察しやすいのはシカやクマ、キツネ、ハクビシン、サル、テンなどのふんという。
「ふんだけでは種類の判断が難しい場合もあるので、足跡など複合的に見ると分かりやすい」と藤田さん。巣や食痕なども含めて「フィールドサイン」と呼ばれ、子どもの夏休みの自由研究で取り上げても面白そうだ。野山を訪れる機会の多い夏、足元に注目してみては―。

メモ
【ふん観察時の注意】長袖長ズボンで、山に入る場合は長靴着用がよい。ふんには直接触れないよう気を付ける。観察ガイド本やインターネットの情報などが参考になる。その場で判別が付かない場合、大きさが分かるように物差しと一緒に写真に撮ると、後で調べる際に役立つ。