白銀の北アルプスと共演する柿景色(塩尻市)

晴れの空に輝く新雪の穂高連峰を背景に、柿が温かな彩りを添える=ニコンD5、AF-S ニッコール300ミリ、10日、塩尻市片丘

懐かしさと郷愁誘う冬の風物詩

塩尻市片丘から眺める新雪に覆われた穂高連峰を背景に、温かな領域をつくる橙(だいだい)色の柿の実が、冬空に映えている。
懐かしさと郷愁を誘う柿景色は、初冬の風物詩だ。今年は柿のなり年だった。年の瀬になっても鈴なりのまま収穫されない放置柿が目立つ。飽食時代や世代交代の影響か、民家の柿すだれの光景が見られなくなった。
柿の学名は「Dios(神の)pyros(食物)Kaki=ディオスピロス・カキ」。縄文や弥生時代の遺跡から種の化石が発掘され、古来から「生活樹」として人との関わりが奥深い。
柿は、ビタミンCや利尿作用のあるカリウムなどが豊富だ。「柿が赤くなれば医者が青くなる」とか「二日酔いには柿が一番」などといわれ、どこの家でも干し柿や熟し柿など越冬の保存食にしてきた。
新年を迎える神棚には一番大きな柿を供える風習や、「木守り柿」として全部収穫せずに数個を残す温かな気配りも。「なるかならぬか、ならなきゃ切るぞ」と柿の木を脅し、鉈(なた)で幹に傷を付け小豆粥(がゆ)を塗る「なり木責め」の小正月行事も、今では忘れ去られてしまった。
柿にまつわる句も多い。松尾芭蕉の「里古(ふ)りて柿の木持たぬ家もなし」。正岡子規の「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」。友人が贈ってくれた次郎柿を食べながら、句の光景を脳裏に描いた。
(丸山祥司)