従業員が70~80代のそば店

病から復帰 営業再開に笑顔

JR松本駅アルプス口(西口)近くに、地域に愛されて15年のそば店「いばらん亭」(松本市巾上4)がある。従業員は全員、地元の70~80代。住民主体の地域おこしの成功例としても知られる店だ。2022年4月、店主の筒井敏男さん(78)が病に倒れ、しばらく休業していたが、11月、筒井さんの“リハビリ”として週1日のみの営業で再開し、店に笑い声が戻った。
営業は毎週木曜日で、10人限定の完全予約制。ただ、来店できるのは、事前に筒井さんから電話で「食べに来てよ」と誘われた常連客だけだ。
「10人分だけそばを打ち、あとはお客さんの喜んでいる顔を見たり話をしたり。皆さんに私のリハビリに付き合ってもらっているんですよ」と筒井さんは笑う。
常連客の一人は「仲間と行き会えるのがうれしくて毎週来ている。毎日営業日が待ち遠しいんです」。開店当初の従業員で、今もイベント時などには店を手伝う岡田匡代さん(91)は「この店は生きがい」とほほ笑む。

筒井さんは昨年4月、生死をさまようほどの病気を患い、2度の手術をした。同じ時期に迎えた開店15周年は療養のため休業を余儀なくされたが、担当医と相談し、11月に現在の形でようやく再開。「今、店に立っていられるのは奇跡」と振り返り、「徐々に営業日を増やしたいと思っている。様子を見ながらだね」とゆったり構える。
店のメニューを考え、作るのは、筒井さんの妻・とみ子さん(74)。昨年の営業最終日の「盛りそば」の内容は、そば、かき揚げ、煮物などのほか、冬至に合わせてカボチャ団子とカボチャの寄せも。盆に乗り切らない量だ。
「食材の組み合わせを考えるのが好き。品数がどんどん増えちゃうけど、『もういいや!』って感じで出している」と笑う。
値段は700円。客から「こんなに安くちゃ申し訳ない。上げてくれ」と再三要望があり、昨年末に100円値上げした。

店は、松本駅西口整備に伴い多くの転出者を出した巾上西町会に、「みんなが気軽に寄っておしゃべりができる“憩いの場”をつくろう」と、当時町会長だった筒井さんの自宅1階を改装して開いた。
「仲間がいなくなって、みんなさみしくなっちゃってね。来た人が元気になるような店にしようって、住民と松本大学の学生たちが一緒になって立ち上げた」(筒井さん)。
20人近くいた従業員は全員、60~80代の地元の女性と同大の学生。毎日おやきを作って提供したり、毎週のように店の前で朝市を開いたり。3カ月に1度の落語会「ひぐらし寄席」は今も続く。
15年間働く藤森明子さん(75)は「お客さんや従業員と話すのが楽しくて。みんなこの場所が好きで、客より従業員の方が多いくらいだったんです」と話す。
しかし、新型コロナウイルスの影響で学生が店を手伝えなくなり、店は大きく変わった。筒井さんは言う。「学生と年寄りが一緒にやってきたから続いたと思う。若者のエネルギーや発想力は地域に必要不可欠。早く学生たちと一緒にやりたいし、学生の中から後継者を出せたらいいと思っています」