竜を生み出す表現者たち

「竜」は神話・伝説の中の生き物。それだけに威厳ある容姿から、想像力をかき立てられる。竜に特別な感情を抱く4人の表現者の、それぞれの技法から生まれた竜を紹介する。

自分らしく生きること 白龍に教えてもらった

ペーパーアート作家 月岡佳代子さん

木に体を巻き付け、目指すは天。今にも動き出しそうなこの作品の名前は「白龍(はくりゅう)~春夏秋冬」。ペーパーアート作家、月岡佳代子さん(43、安曇野市穂高)が「一年中、幸せであるように」という願いを込め制作した。
昨夏、木材店で見つけた桜の板にイメージが湧いた。「木に竜を巻き付けたい」。紙と木の組み合わせが初めてなら、縦1メートル、横45センチの大作に挑戦するのも初めて。「うろこはどうやって表現するか」など一からスタート。下描きは夫の勇輝さん(38)が担当した。
うろこに使った銀色の紙は、リアル感を出すため、まち針を使ってひし形に巻き、千枚以上貼り付けた。表情はあえて優しい雰囲気に仕上げ、「見る人が心穏やかになるように」と月岡さん。
制作期間は4カ月。その間、プレッシャーで熱を出したことも。苦労が多かった分、出来上がったときの感動は大きく、涙が止まらなかった。「白龍から、自分らしく生きることで、周囲も幸せになると教えてもらった」
3~6、13、14日は、個展を信毎メディアガーデン(松本市中央2)で開催予定。目指すは海外。「今年は竜のように、誰にも追い付かせない速さで昇っていきたい」

体のひねり具合を工夫 昇り竜にあやかりたい

performer potato(パフォーマー ポテト)さん

手品、バルーンアートのステージを披露するperformer potatoさん(50、安曇野市)。ショーのクライマックスには、スティックバルーンを50本以上使った竜を作る。
手品歴は15年。レストランなどでテーブルマジックを行う中、仲間からバルーンアートを学んだ。当初は会社員の傍ら取り組んでいたが、7、8年前、静岡県で開かれた大道芸のワールドカップを見て、その道を志した。今はプロのパフォーマーだ。
ショーの見せ場で作る竜は、5種のバルーンを使って顔、胴体、尾など、パーツごとに作っておき、ステージ上で組み立てる。準備に2時間ほどかかるため、「たまにしか作れない」とポテトさん。大きさは約3メートルで、ポールに巻き付けることもある。角、ひげ、目など、顔を作るのが一番難しいという。
「形はある程度は決まっているが、いかに竜らしくするかが難しい。ポールに巻き付ける際は、ひねり具合を変えるなどの工夫もしている」
ここ数年は、コロナ禍で仕事の依頼がほとんどないなど、逆風にさらされた。それだけに「今年は辰(たつ)年。昇り竜にあやかり、竜のパフォーマンスの依頼が増えてほしい」と期待している。

豊かで平和な世界思い 手の動きに任せて描く

画家 安田理子(みちこ)さん

画家、安田理子さん(48、松本市笹賀)の作品は、主に丸や点などの模様を使って描く独創的な表現方法が魅力になっている。
構成を考えず、下描きをしないで自分の感覚に従って描くのが“安田流”。手の動きに任せて出来上がった作品には竜のほか、宇宙空間や海中を連想させるものが多い。
「絵の具同士が混ざり合い、狙って出せない色や形を楽しみながら描いている」と安田さん。竜の作品も、最初から「竜を描こう」と思ったのではない。スタートは、細長くうねる形が幾つか現れ、それらがつながり「竜のようになった」という。
作品の根底には「アートを通して豊かで平和な世界を築いていきたい」との願いがある。
独学で絵を描き始めたのは2011年から。松本市や東京都で個展を開催したほか、国内外の展覧会にも出展している。
「それぞれ独自の表現がある。何が好きで、何が楽しいかなど、その人本来の感覚を呼び覚ますきっかけになれば」と期待する。
27、28日にギャラリーノイエ(同市大手3)で展示販売会を行う。作品はホームページでも見ることが可能。

大自然から感じたこと 和紙にこだわり丁寧に

和紙貼り絵 田辺忍さん

貼り絵作家の田辺忍さん(46、松本市浅間温泉)。和紙にこだわり素材や種類ごと1枚1枚丁寧に貼り合わせて作り上げる。作品は神様をモチーフにしたものが主だが、大自然からインスピレーションを受け、竜の作品が生まれた。
アカネ染めの和紙を背景に使い、宝珠を持って大空へ昇る竜を描いた作品「暁の昇龍」は、登山に出かけた際、山頂から眺めた雲が「竜神様」のように見えたことからイメージを膨らませたという。たてがみやひげは和紙を一本一本重ね合わせ、うろこには透け感がきれいな落水紙を使った。明るく優しい雰囲気の作品だ。
中学生時代から絵を描いている田辺さん。和紙貼り絵を始めたのは2006年。柔らかで温かみのある質感に引かれた。下絵から、型紙を作り、貼り合わせる。1カ月から大作だと4カ月かかることも。立体感を強調できるのが魅力という。
日本の神話を作品にするため、古事記や日本書紀を読んでイメージを膨らませ、自然からの恩恵に感謝し「北アルプスとライチョウ」「桜とシジュウカラ」などの作品もある。
作品がデザインされたノートや御朱印帳などのグッズも販売している。