地域資源で儲かる田舎を

【うちだげんや】35歳。東京都出身。法政大経済学部卒。練馬区役所勤務など経て、2023年長野県へ移住。24年株式会社あぐりぽっぷ創業
上伊那郡南箕輪村 6300番地1
―練馬から長野
東京で生まれ、学生時代はスノーボードをやっていました。インストラクターもしていたので長野県には何度も来ていました。卒業後は練馬区役所に約9年勤めました。教育委員会や福祉課、防災関係などを担当しました。公務員としてさまざまな経験ができました。
コロナ禍となりワクチンが出始めた2021年ころは、危機管理室で対応に追われ大変でした。コロナ関係の膨大な仕事量に日に日に疲弊していきました。コロナ禍という大きな社会課題を解決するのは公務員だけじゃないと感じ、22年に退職しました。スノーボードをやっていたこともあって信州は好きでした。雪が多過ぎず暮らしやすい環境でありながら、雪山が近いこともあったので南箕輪村に住み始めました。
―アスパラガスとの出合い
創業したい気持ちも漠然とあったのですが、行政以外の仕事をどうやるかを考えていた時期でした。まずはフリーランスの形で、都内の映像制作会社の仕事をしました。撮影やディレクターの仕事を兼業し、動画などを作りました。同時に、南箕輪村で地域おこし協力隊の仕事もしていました。東京と長野の生活を半年ほど続けました。
協力隊の仕事をしながら、地域の農産物の動画撮影や取材をしていた時に、アスパラガスに出合いました。
南箕輪村や周辺地域は、アスパラガスが名産で、出荷数は全国上位にランクインします。しかし、調べていくと、アスパラガスは少しでも湾曲すると売り物にならず、端材として廃棄されてしまうことを知りました。フードロスです。このもったいない端材を何とか有効活用できないか、研究しました。
サプリメント化に可能性があると思いました。移住して個人的に感じたことなのですが、これだけコメや野菜、果物など自然資源がある中で、ジャムやドライフルーツはあるけれど、健康食品が本当に少ない。地域資源なのにお金になってない生鮮食品もいっぱいある。サプリメント化してマネタイズ(収益化)すると、お金が回る仕組みができるんじゃないか。
22年末くらいから、「あぐりぽっぷ」の創業準備をしながら、開発を進めました。インターネットでサプリメント化できる業者を片っ端から調べて、順番に問い合わせて相談し開発していきました。
初期投資は大変でしたが「アスパワー」が完成しました。製造初期の売り上げとクラウドファンディングを使った売り上げから順調でした。初年度は注目され、都内ショッピングモールでブース出品したり、産直新聞社(本社・伊那市)などで講演させてもらったりして好スタートを切れたと思ったのですが、最初だけでした。

ビジョンの手書き図
―ビジョン見直し
もっと地元農家と協力してやっていきたかったのですが、やはり農家にとってマストプランはアスパラ本体を売ることなので、どうしてもファースト対応ではないこと、何よりも味がなく健康効果が出るまで時間がかかるサプリメントを扱い、さらにできたばかりのスタートアップ企業だとなかなか信頼関係を構築できません。
行き詰まりどうしようか悩んでいた時、塩尻商工会議所の創業担当者と深い相談をする機会がありました。起業家支援施設のシビックイノベーション・スナバに所属していた関係で、以前から顔見知りだったのです。
農作物をフードロス化せず収益化につなげ、ユーザーへの販売を含めてより本質的なビジョン・提供価値を再考したい点などを話すと、再度大元のビジョンから組み立て直そうとなりました。
24年10月から翌年3月くらいにかけ、会社として、起業家としての在り方を話し合いました。手書きの図ですがビジョンからの循環する仕組みなども考えていきました。
見つめた結果、地域資源から開発するおいしい商品=マーケットフィット、かわいく愛されるキャラクター=パーソナルフィット、地域資源でもうかる仕組み=ソーシャルフィットの三つの軸をつくり、企業ビジョンを構築していきました。
「アスパワー」とほぼ同時期に、信州の黒ごまときなこで開発した無添加プロテイン「信州たんぱく和シェイク」があります。現在、地域資源から開発したおいしい二つの商材をマーケットフィットとして販売しています。このプロテイン商材には、パーソナルフィットできるようかわいらしいキャラクターも設定しています。無添加プロテインの方が味もソフトで最初の入り口として入りやすいイメージがあるようです。この商材から好きになってもらい「アスパワー」につながればうれしいです。
―これから
相談してから約1年が経過しました。やっぱり三つの軸がないと起業家として立っていられなくなる。相談して良かったと実感しています。
経営を安定させるためにも、二つの商材のコンセプトをリンクさせて、販売できたらと考えています。
地域認知と定期購買者の増加、県内で素材を完全粉末化できる製造パートナーの確定、生産者ともっと一緒に歩んでいくこと…など、課題は山積みです。
企業ビジョンの「地域資源で儲かる田舎を」を、現在試行錯誤している段階です。地域全体で豊かになり、関わる人たちと一緒に潤えるよう、やってきたいです。
(聞き書き・田中信太郎)

東京ビッグサイトでのブース出展