邦楽の魅力を若い世代に―箏奏者・押切さちさんが信大附属小で特別授業

箏と尺八。正月の雰囲気が残る1月14日、二つの和楽器による邦楽「春の海」が、信州大附属松本小学校(松本市桐1)の音楽室に流れ、5年生児童2クラスが鑑賞した。
日本の伝統楽器と音楽に親しむ特別授業。講師に押切さちさん(43)ら一線で活躍する邦楽奏者を招き、その指導を受けて児童たちが、箏で「さくらさくら」を弾いたりもした。
さちさんは歴36年の箏奏者。同市などで毎年演奏会を開いている。わが子2人が通学している縁で、昨年から同小の講師を務めている。
「どの子も和楽器や邦楽に関心を持ち、素晴らしい演奏を聴かせてくれました」と振り返る。こうした学校での演奏と指導は、若い世代に邦楽の魅力を伝える取り組みだ。先達はさちさんの身近な所にいた。

夫家族と邦楽界を盛り上げ

「指を『つ』の字のように丸め、絃を弾いてみましょう」。箏奏者の押切さちさんが、信大附属小の5年生を対象にした音楽の特別授業で、箏の弾き方を指導した。
児童たちの前には計18面(面は箏を数える単位)の箏。ほとんどの児童は触るのが初めてだったが、慣れてくると美しい音を奏で始めた。最後は楽譜を見ながら「さくらさくら」を合奏し、「強く絃を弾くときれいな音が出るね」「とても楽しい授業だった」などと感想を話し合った。
「押切」は旧姓で、公の場で箏を演奏するときに名乗る。本名は渡辺。夫は、松本市の和楽器専門店「琴光堂」(城東1)の5代目店主、渡辺清弘さん(46)だ。
授業には同店から箏17面が持ち込まれた。同校は長年、音楽の授業で邦楽を教えてきたが、保有する箏は1面のみ。1クラス35人の児童が授業中に弾く時間は、ほんのわずかだった。担当の柴明子教諭(30)は「琴光堂さんの協力と講師陣の丁寧な指導で、児童一人一人がじっくり箏を弾けるようになりました」と感謝する。
さちさんにも教える動機があった。常々「邦楽の魅力を次世代に伝えたい」と望んでいたのだ。
実際、その熱心な指導ぶりは共に講師を務めた尺八奏者の両角昌幸さん(54、松川村)が「邦楽を盛り上げたいという意気込みが伝わってくる」と感心するほど。授業後、2人は「児童の邦楽への関心は予想以上。合奏ではみんなの心が一つになっていた」と手応えを感じ、柴教諭も「来年度以降もこの授業を継続していきたい」と語る。
さちさんは東京都出身。琴光堂は明治13(1880)年から続く老舗で、先代店主の義父清三郎さん(78)と義兄淳さん(49)は尺八、義母邦子さん(76)は箏の奏者という邦楽一家。夫清弘さんは店を守りながら、和楽器の販売やメンテナンス、演奏会の企画運営などで県内外を飛び回り、邦楽界を下支えする。
6歳で箏を始めた邦子さんは近年ジャズに挑戦するなど、70代になってなお活躍の場を広げるが、学校での指導の先駆者でもある。約40年前、淳さんと清弘さんが山辺小学校に通っていた頃、清三郎さんと邦子さんは請われて同校に行き、児童を前に箏を演奏した。これが評判を呼び、2人は他の小学校にも招かれるようになった。今も中信地方の小、中、高校に足を運ぶ。
そんな義父母をさちさんは深く尊敬する。清三郎さん、邦子さん夫婦もさちさんに向ける目は温かい。とりわけ邦子さんは「附属小での演奏と指導も(さちさんが)自発的に始めたもの。箏の演奏家としても自分の道を歩み、日々の研さんも怠らない。とても頼もしく思っています」と言葉に力を込めた。
同店では初心者向けの体験教室なども行っている。TEL0263・32・3255