神秘的な光彩ひとときの夢世界
池田町陸郷有明(うみおう)の「桜仙峡」。宵闇が迫り群青色の空が広がると、見頃を迎えた山桜がほのかに浮かび上がった。俳句の季語でもある「花明かり」だ。
近くでフクロウが鳴く登波離橋(とばりばし)の高台に立ち、桜仙峡を俯瞰(ふかん)する。約300ヘクタールの山肌にざっと山桜が4000本。10日、西の空に宵の明星(金星)が輝き始めると、パステルカラーの優しい絵画のような光景から一転、夢のような世界が広がった。
手前に一際明るく青白い領域を構える一本桜。その背景遠く存在感を示すかのように鹿(か)の子模様を形成し幻想的に浮かび上がる山桜。昼と夜の間のひとときに見せる神秘的な光彩に息をのむ。
桜仙峡は日本の山桜の名所として知られ“西の吉野、東の陸郷”と言う人もいる。15年前、この景観を守り大切に後世に伝えようと「陸郷登波離橋愛護会」が結成された。会長の藤松守さん(68)は「日本人は精神面でも桜を大切にし、めでてきた。心が疲れたら昔ながらの桜の風景に包まれ癒やしてほしい」。
のどかで広大な春景色は、こぼれた実から増えたり、小鳥が食べて運んだ実から広がったりしてできた。大自然が造った山桜の園「桜仙峡」は日本の原風景の宝物である。
(丸山祥司)